


若さというものはただそれだけで輝いている。だが、若さは永遠ではない。いや、むしろ短い。この世の春を謳歌したスターたちも、やがて夏を迎え、秋を迎える頃には中年となり高齢期にさしかかっていく。そうなった時に、若さだけに支えられていた者はその輝きを失い、静かに姿を消していく。一方で、若さ以外の何かを持っていた者あるいはその何かを培った者だけは、"別の輝き"を放ちはじめる。
そして彼らは第一線ではなくとも確実に自分の居場所を見つけ、表舞台に立ち続ける。また若い頃には端役やキワモノ扱いをされていても、年を重ねるごとにその"別の輝き"を増していく者もいる。人生の晩秋以降の、彼らのその"別の輝き"を、ある人は「安定感」「存在感」と評し、ある人は「いぶし銀」「円熟」と称える。
甘味や辛味だけが味ではない。熟成の旨味はもちろんのこと、ときには苦味も、また魅惑の味となる。そんな深い味わいを持つ、映画界の"飽くなき者たち"をシリーズで紹介していく。人生の晩年を迎えながらも、いまだ独自の輝きを放ち続ける役者たちを選んでいきたい。第1回目は、80歳を超えてなお現役を演じ続ける永遠のスター、高倉健を取り上げる。「読んで貰います。」


実年齢と見た目年齢のギャップにおいて、健さんのそれはもはや神懸かっている。最新作『あなたへ』(2012年)時点の彼の実年齢は81歳だが、あんな81歳がどこにいるだろうか。もちろんメイクもある。照明もある。
だが、そういうことを割り引いても、やはり驚異的に若々しい。同作では、北陸の刑務所に嘱託で勤務する指導技官という役どころなので、せいぜい65歳までという設定だろう。多少の老いは随所に感じられるものの、見た目年齢もそれぐらいにしか見えない。つまり今の健さんは"マイナス15歳肌"ということだ。
そんな彼も、当然のことながら、かつては実年齢に近い役を演じていた。『網走番外地』『昭和残侠伝』シリーズ(いずれも1965年〜)の頃は30代半ば〜後半、『新幹線大爆破』(1975年)、『幸福の黄色いハンカチ』(1977年)の頃は40代、『駅 STATION』(1981年)、『居酒屋兆治』(1983年)、『ブラックレイン』(1989年)の頃は50代だ。この頃までは、いわゆる年相応の役だといえるだろう。
ところが、その後の健さんは実年齢よりも若い役を演じることが増えていく。『四十七人の刺客』(1994年)では44歳(にはとても見えないが史実に基づけば)の大石内蔵助を63歳で、『鉄道員(ぽっぽや)』(1999年)では定年を迎える駅長を68歳で、たとえ無理があるといわれようが、それぞれ演じている。
健さんの凄いところは、単に若々しいだけではなく、現役感があるところだ。
『あなたへ』でも嘱託の指導職とはいえ現役感たっぷりで、本人もそれを自覚しているので、「長期休暇は迷惑がかかる」と辞表を提出する。もちろんそれはダテではないから、所長の長塚京三には半ギレで慰留される。これは今の時代、完全に失われた昭和のシチュエーションである。嘱託契約は1年更新で、あっさり打ち切られることもままあるこのご時世、いや、嘱託でなくとも虚勢を張って辞表を出せば「そうですか」とそのまま受理されてしまうこの時代、トップに本気で慰留される健さんの姿は、もはや、もうひとつの昭和残侠伝である。その残侠ぶりに観客は熱い羨望の眼差しを注ぐ。「オレもあんなふうに引き留められたい」と。その普遍の現役感で人々の羨望の対象であり続ける彼は、やはり永遠にスターなのだと思う。
大御所となって以降の健さんが自分で作品を選んで出演しているのは紛れもない事実だから、彼は自覚的に、世の中が彼に求める"現役"を演じ続けているのだろう。健さんはいつまで経っても、どこを切っても、一途でストイックだ。
彼はこのまま最期まで現役を演じ続けるのだろうか。チャップリンですら晩年の『ライムライト』では「白塗り」という"現役メイク"を落として、実年齢に近い老俳優役を演じている。同じように健さんも次回作で年相応の役を演じるのならばぜひ観てみたい。一方で、やはり"現役"を演じ続けるのならばそれはそれで観てみたい。生涯現役を宿命づけられたともいえる彼が、自身のフィルモグラフィーに、どう落とし前をつけるのか。ラストまで目が離せない。
第2回は「山﨑努」を予定しています。
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