




岩下志麻は、二軸を行き来しながら華麗なフィルモグラフィーを紡いできた。二軸とは夫・篠田正浩監督作品という軸と、それ以外の監督作品という軸である。
1960年代、松竹ヌーベルバーグの一人であった「篠田軸」に出演する際の岩下の役柄は先鋭的で、一方の「非篠田軸」に出演する時は松竹の看板女優らしいホームドラマ的役柄が中心だった。前者の代表作は、ATGの傑作として名高い『心中天網島』(1969年)の文楽人形的アヴァンギャルドな芝居。後者の代表作は、小津安二郎の遺作『秋刀魚の味』(1962年)のヒロイン役だ。
その後「篠田軸」の先鋭さは、まるで人が変わったかのように失われて丸くなり、出演する岩下の役柄も自然とオーソドックスになっていく。『桜の森の満開の下』(1975年)の鬼女や『はなれ瞽女(ごぜ)おりん』(1977年)の瞽女あたりまでが、「篠田軸」での彼女の個性的な芝居の最後なのではないだろうか。
面白いことに、そうなると今度は逆に彼女は「非篠田軸」で個性的な役どころを演じていくようになる。野村芳太郎の『鬼畜』(1978年)での児童虐待鬼嫁、五社英雄の『鬼龍院花子の生涯』(1982年)での極妻、降旗康男の『魔の刻』(1985年)での息子との禁断の愛に堕ちてゆく母親など、これら男盛りの監督たちとの脂の乗った仕事ぶりからは、「夫とはこういうことはしないのよ」という岩下の艶めかしい囁きが聞こえてくるかのようだ。中でも『鬼畜』で幼児の口に無理やりメシを押し込む鬼嫁芝居は、この場面の裏返しである緒方拳との濡れ場とともに、そのえげつなさにおいて日本映画史のトラウマ的名シーンであるといっても過言ではないだろう。
「非篠田軸」で培われたこれらの蓄積は、再び五社英雄と組むことによって爆発する。それが『極道の妻(おんな)たち』シリーズ(1986~98年)だ。1作目の主演を岩下が務め、その後、十朱幸代、三田佳子と続くが、4作目で岩下が再登板となったあとは、そのまま10作目まで主役を張り、結果的に彼女の代表作となる。
岩下はこのシリーズで、映画の道を極めた東映出身の個性的なベテラン監督たちの色にその都度器用に染まってみせながらも、1作目で確立した"ド迫力の姐御キャラ"を貫く。まさに"極道の妻"そのものである。
山下耕作組(『覚悟しいや』(1993年)他)では正統派任侠映画の世界で期待通りの華のある芝居を魅せ、中島貞夫組(『決着(けじめ)』(1998年)他)ではこの監督のマイノリティーへの温かい眼差しに寄り添ってみせる。
中でも見せ場たっぷりなのが、降旗康男組の『惚れたら地獄』(1994年)である。極妻同士のブランデー一気飲み対決。指をつめる時の躊躇いの無さ。銃を突きつけられてからの腹の座った台詞回し。葬式では仇敵相手にマシンガンをぶっ放し、「極道の女としてかく致す他なく、ただいまケジメをつけさせてもらいました」と啖呵を切る、いやこれはもはや大見得を切ると表現した方が正しい。映画一本丸ごと岩下歌舞伎である。
小津に見出され、松竹大船調で育ったお嬢様が、自分のことを「ワテ」と称し、「死ね」だの「クサレ外道」だの言いながら、撃ちまくり殺しまくって"東映の女神"を演じ切る。その姿はこの上なく痛快だが、同時に限りなく淫らな美しさに満ち満ちている。
次回は「樹木希林」を予定しています。
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