




日本映画の中で一時代を築いた伊丹十三映画は、その後数多く作られることになった「未知の業界モノ」というジャンルを切り拓いた。その主役を長く演じ続けたのが宮本信子だ。『タンポポ』(1985年)のラーメン店の店主、『マルサの女』(1987年)の国税査察官、『ミンボーの女』(1992年)の弁護士、『スーパーの女』(1996年)のスーパーオタクの主婦等々、伊丹の脚本が宮本前提のアテ書きだったから当然と言えば当然なのだが、これらの作品の主演は彼女以外にはありえなかっただろう。
徹底的な取材に基づいて書かれた伊丹の脚本の情報量は毎回凄まじかった。本来ならばナレーションやテロップあるいは図解で解説しなければならないほどの情報を、彼女はあくまでもドラマの中の台詞として、説明的にならないように、ひとつの演技として的確に表現していた。その苦労は並大抵のものではなかったはずだ。
伊丹にとっての宮本は、黒澤明にとっての三船敏郎だったのだろう。情報の銃弾が飛び交う中でアクの強い個性派俳優たちがシノギを削る伊丹活劇の中心には、彼女の快活で胆の座った存在感が欠かせなかった。
この2人が切り拓いたジャーナリスティック・エンターテイメントとでも呼ぶべき分野は、映画では周防正行(伊丹映画のドキュメンタリーも監督)や矢口史靖に受け継がれ、現在のテレビの情報バラエティ番組にまでも影響を与えているといえる。一業界とそこで働く人々の中に語るべきドラマがあり、それが娯楽作になることを世に知らしめたのは伊丹と宮本だった。
同時に宮本は、男と対等に働く女の開拓者でもあった。今では当たり前になった、組織の中でバリバリ働く女性主人公の原型は、『マルサの女』の板倉亮子なのではないだろうか。もちろんそれまでも藤純子や梶芽衣子のような自立した強い女性主人公がいなかったわけではない。だが、彼女たちはあくまでもアウトローであり、ある種のファンタジーの世界の住人だった。男社会の現実を反映して、映画でカタギの女性職業人が主人公になることは当時まだまだ少なかったのである。この国で男女雇用機会均等法(1985年)を最初に見える化したのは宮本信子だったのではないか。
近作『阪急電車 片道15分の奇跡』(2011年)には、そんなかつての開拓者である宮本への敬意が満ち溢れている。この作品で、酸いも甘いも噛み分けた65歳の女性を演じる彼女は、電車の中で出会う女性たちの悩みを聞き、アドバイスする。それは、退官後の板倉亮子の姿であり、その語り口には退役軍人の風格すら漂っている。
元婚約者の結婚式にあえて純白のドレスで出席してきた傷心の中谷美紀を「好きよ、そういう女は」という言葉でやさしく包み込み、DV彼氏に突き飛ばされた戸田恵梨香には「くだらない男ね。やめといた方がいいと思う」と忠告する。中でも、いつまでも泣き止まない孫役の芦田愛菜にかける一言が凄い。「泣くのはいい。でも自分の意志で涙を止められる女になりなさい」。これは当代きっての"泣き女優"といわれる芦田への、大先輩からの深すぎる金言でもある。『マルサの女』に登場する携帯電話は「肩掛け式」であった。そんな時代から最前線で闘い続けてきた女の言葉には、やはりただならぬ重みと説得力がある。
第9回からは再び男優編です。次回は「加藤剛」を予定しています。
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