




「自然な芝居」が主流の時代だというのはよくわかる。玄米と根菜、ライ麦パンと野菜スープのセットのような作品が多いから、淡泊な素材が求められているという事情も理解できる。また、そういうタイプの作品が味気ないのかといえばそうではなく、名作・佳作が少なからずあるのも認める。だからといって「芝居がかった芝居」がもう不要なのかといえばそうではないだろう。ステーキやカツ丼を作れなくなるのは困るし、自然派メニューにだって旨味や食べ応えを出すために脂質や蛋白質を足した方がいい場合もある。
厚み。深み。威厳。風格。そんな言葉をいくら並べても表現しきれない存在感。仲代達矢が持つその類まれな磁力を、数多の巨匠たちは求め続けた。黒澤明は『影武者』(1980年)や『乱』(1985年)で。小林正樹は『人間の條件』(6部作/1959~1961年)や『切腹』(1962年)で。山本薩夫は『金環蝕』(1975年)や『不毛地帯』(1976年)で。岡本喜八も五社英雄も皆、滋味がたっぷり詰まった彼の「芝居がかった芝居」を欲した。
もちろん仲代の芝居の幅は非常に広い。成瀬巳喜男に望まれて自然な演技もすれば、市川崑の期待に応えて癖の強いキャラクターも演じてみせる。ただ、彼の最大の魅力は、やはりあの眼光をフルに使った熱演にあるだろう。
たとえばそれは『乱』に端的に顕れている。本物の火矢が飛び交う天守閣や炎上する城という物凄いシチュエーションの中にいても、仲代はかすまない。負けない。ぐいぐい前に出てくる。また、彼が荒野を彷徨する狂王を演じている時間は1時間を超えるが、あの人間離れした幽鬼のようなメイクは、下手をすれば側にいる道化役の池畑慎之介よりも道化である。だが決してそうはならないのだ。彼が演じれば、運命に翻弄される人間存在というシリアスな世界が成立する。
喜寿を越えて久しぶりに主演を務めた『春との旅』(2010年)は、老いた元漁師と孫娘のロードムービーである。仲代は『乱』で3人の息子たちを訪ねてまわったように、この作品では4人の老兄弟たちを訪ねて歩く。普通に考えれば「自然な芝居」がしっくりくるような物語に、小林政広監督はあえて彼の「芝居がかった芝居」を投げ入れている。だが、もはや作品と俳優のマッチングがどうだとかそういう次元の話ではない。これは、仲代の国宝級の濃厚な"舞台"を、長回しの映像でじっくり味わうための映画だ。
独特な早足、夕暮れの駅に佇む姿、水筒の水を飲む、20年ぶりに酒を飲む、生まれて初めてコーヒーを飲む、ホテルのロビーで弁当を食べる、うまそうにラーメンをすする、怒鳴る、涙ぐむ、はにかむ…そのすべての芝居に目が釘付けになる。「みんないろいろあるんだなあ」「すっかり変わっちまった」「いいときはみんないい、わるいときはみんなわるい」どこかで聞いたようなセリフでも、仲代が口にすればなぜか強い香りが立つ。そして沁み込んでくる。
クドくて、重い。しかし、うまい。ステーキやカツ丼とはそういうものだろう。そうでなければいけないものだろう。
次回は「藤竜也」を予定しています。
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