




相変わらず素晴らしい挟まれっぷりだな、と感服した。『夏の終り』(2013年)の小林薫のことである。作家役の小林には妻がいるが、知子(満島ひかり)と不倫関係にある。本妻は、夫が自宅と妾宅を行き来することを半ば認めており、満島も本妻と別れてくれとは言わないため、奇妙な均衡が保たれている。そこに満島の元恋人(綾野剛)が現れたことをきっかけに、彼女の割り切ってきた感情が揺れはじめる。
ここからが小林の本領発揮だ。「どうにかしてよ」と満島に迫られても「すまん」としか言わない。愛人の伝家の宝刀「こんなのもういや」が出てもまともに返事をしない。泣かれてもはぐらかす。決して結論は出さず、どっちつかずの状態を続ける。やがて仕事もうまくいかなくなり、さらに追い詰められると「一緒に死んでくれ」と言い出す。でも実はそんな度胸もない。この煮えきらなさ、優柔不断さは名人芸の域である。いま、男女間の板挟みを演じさせて小林の右に出る者はいないだろう。
『それから』(1985年)では妻に不倫をされる側だった小林だが、『コキーユ 貝殻』(1999年)では家庭がありながらかつての同窓生への恋心に苦しむ男を涙で演じ、『阿修羅のごとく』(2003年)ではバレバレの不倫を続ける男を笑いで演じてみせた。とりわけ後者の芝居は味わい深く、愛人(木村佳乃)に電話したつもりが間違って妻(黒木瞳)に電話してしまったり、木村と同じコートを黒木に贈っていたことが発覚したりと、何とも粗忽な不倫ぶりが可笑しい。だからといってただ不器用なのかといえばそうでもなく、寝ころんだまま黒木の足首をつかんで指先でストッキングを破るなどという寝技を使ったりもするので侮れない。
小林が演じてきた数ある板挟みの中で、最も複雑かつ高度なものは『秘密』(1999年)だろう。妻(岸本加世子)と娘(広末涼子)が事故に遭い、娘だけが助かるのだが、彼女のからだには妻のこころが宿っており、小林は「娘のからだ」と「妻のこころ」の間で苦悩することになる。
原作は東野圭吾の小説で、下手に映像化すれば単なる荒唐無稽になりかねない話である。それを人間味あるドラマに手堅くまとめた滝田洋二郎監督の手腕もさることながら、1人の女優だけを相手に板挟みになるという離れ業を見せた小林はさすがだと思う。
娘のからだで前向きに人生を生き直そうとする妻に取り残されていく不安と嫉妬。妻のこころを愛していても、父親として娘のからだを抱くことなどできないという葛藤。小林はこれらのねじれにねじれた板挟みを、あくまでも暗くならないように、持ち前の軽妙な雰囲気で緩和しながら、丁寧に演じている。
公開当時、10代で40代の女ごころになりきった広末はその演技を評価され、内外でいくつかの賞も受賞した。それは彼女の実力だと思うが、相手役が小林であったことも大きいだろう。彼の巧みな「受けの芝居」があったからこそ広末が輝いたというのが、この作品の成功の秘密なのではないだろうか。
次回は「吉永小百合」を予定しています。
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