




『極道の妻たち 三代目姐』(1989年)で、坂西組組長(丹波哲郎)の妻を演じる三田佳子は、ストーリーとはあまり関係なく"元女優"という設定になっている。極妻の美しさがひとつの見所になっているシリーズとはいえ、なぜわざわざこのような説明が加わるのか。それは、この時代、三田佳子といえば女優であり、女優といえば三田佳子だったからだろう。
観客の身勝手な願望や思い込みも含めて、三田はある時代の世間が考えていた"女優っぽさ"を体現して見せた役者のひとりである。主演作のヒット、数多の受賞歴、CM女王といった輝かしいキャリアは、我々の「女優は華やかな別世界の住人」というイメージそのものであった。その一方で、息子の不祥事への対応のマズさや非常識な甘やかし方には、「別世界に住むがゆえの世間知らず」という妙なリアリティがあった。毎月数十万円という常軌を逸した息子への小遣いの額に、我々は大女優を感じたのである。そこには、表舞台と舞台裏を同時に観せられるような感覚すら伴っていた。
そういう意味では、三田の代表作『Wの悲劇』(1984年)は、皮肉にも彼女のその後の人生を予見するかのような1本だったと言えるだろう。密会中にパトロン(仲谷昇)が急死したことを隠蔽するために、三田演じる大女優が無名の新人(薬師丸ひろ子)を身代わりに仕立て上げるというこの作品は、女優という存在の虚像と実像を、まさに表舞台と舞台裏の同時進行で観せていく物語であった。作中で三田が言い放つ「母や妻はいくらだって舞台で演じられるわよ。良妻も悪妻も」という台詞は、いま聞けば出来過ぎなくらいだ。
この作品での三田は、ほんとうに、呆れるほど女優っぽい。颯爽とした歩き方や身のこなし、常に過剰な自意識が滲む話し方、扇子やサングラスといった小物の扱いに至るまで、どこからどう見ても女優である。仲谷との愛の遍歴を語る際の、ブロードウェイ、エスカルゴ、シルクのスリップといった華麗で大仰な単語もよく似合っている。
薬師丸を共犯関係に引きずり込む時の手繰り寄せるような台詞まわし。身代わりとなった彼女を庇って劇団員たちを説得する時の大演説。見返りとして彼女に主役を与えるために難癖をつけて新人女優を降板に追い込む時の意地悪ぶり。そして、舞台裏で大役に尻込みする薬師丸を鼓舞する時の名台詞「女優! 女優! 女優!」。どの芝居にも、三田ならではの女優らしさが満ち溢れている。
近作『俳優 亀岡拓次』(2016年)でも、三田は大物舞台女優役をノリノリで演じている。『Wの悲劇』で、ホントとホントラシクの違いがわかっていないと、新人に禅問答のようなクレームをつけていた三田だが、本作でも、内から外へ出せていないのは外から内へ入れていないからだの、台詞じゃなく感じなさいだの、わかったようなわからないような独自の演技メソッドを連発していて壮快である。一種のセルフパロディと言えなくもないが、それは"女優女優"の自負のあらわれでもあるのだろう。古希を越えた今でも、その全身からは女優感が滴り落ちている。
次回は「吉行和子」を予定しています。
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