




いつ見ても肩の力が抜けている。能面を思わせる無表情、ゆったりとした話し方、常にニュートラルな身のこなし、そのすべてにおいて、岸部一徳の芝居は徹底的に肩の力が抜けている、ように見える。それはつまり、役者として相当の力を入れて力を抜いている、ということだ。
さまざまな悪役を演じるとき、その落ち着き払った雰囲気は、人を人と思わぬような冷酷さに映る。『その男、凶暴につき』(1989年)の麻薬密売組織のボスや、『座頭市』(2003年)の盗賊の幹部など、静かな物腰が却って酷薄さを際立たせている。『新・仁義なき戦い』(2000年)の、組織の後継者候補に推されて本当はやる気満々でありながら、表面上はなかなか本音を口にせず、周囲を苛立たせる親分役も印象に残る。「ワシにその気はない」とかわしつつ、部下が察して動くのを待つ狡猾さがいい。
一方で、やや癖のある市井の人物を演じるとき、その同じ雰囲気は不器用で微笑ましい味わいになる。『フラガール』(2006年)の炭坑町でハワイアンセンター開業に奔走する社長や、『大阪ハムレット』(2009年)の義理の子供たちにセンスのないプレゼントを繰り返す叔父さんなど、まじめすぎて空回りする役柄は岸部の十八番のひとつだ。藤山直美とのW主演でほぼ出ずっぱりの近作『団地』(2016年)では、この岸部節をこころゆくまで堪能することができる。藤山をはじめ、石橋蓮司や斎藤工との掛け合いで見せる絶妙のズレと間合いは、彼ならではの名人芸と言ってもいいだろう。
岸部が長年にわたって演じ続けてきた職業のひとつに教師がある。『時をかける少女』(1983年)の国語教師や、『さびしんぼう』(1985年)の理科教師など、大林宣彦監督の尾道三部作の先生役が有名だが、岸部先生はどの作品でもやはりいい具合に肩の力が抜けている。
たとえば、同じ大林監督作品の『青春デンデケデケデケ』(1992年)の寺内先生役は、「こんな先生に教わりたかった」と思わせるような、話のわかる雰囲気が何とも魅力的だ。ロックバンドを結成した主人公(林泰文)たちが、合宿練習したい一心で「欧米現代音楽研究会」と称して手書きの合宿許可証を作って岸部のところに持っていくと、「なるほどね」とだけ言ってサインしてくれるシーンが泣かせる。顧問になってやるから第二軽音楽部を作れとアドバイスして、練習場所になる部室まで確保してくれるのがさらに泣かせる。
この寺内先生をはじめ、『69 sixty nine』(2004年)のトラブルメーカーの主人公(妻夫木聡)を陰ながら支えてくれる先生も、『ヴィタール』(2004年)の解剖実習の指導教官も、岸部の演じる先生は熱血教師でもなければ、威厳のあるタイプの教師でもない。カッコいいわけでもなく、むしろ風貌は野暮ったい。だが、酸いも甘いも噛み分けた上で肩の力を抜いたそのスタンスは、実に粋なのだ。野暮に見えてほんとうは粋。それは俳優・岸部一徳のひとつの本質のように思える。
次回は「柄本 明」を予定しています。
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