




その昔、石井隆監督作品で刃物や銃を手に大暴れしていた余貴美子が、『シン・ゴジラ』(2016年)や『外事警察 その男に騙されるな』(2012年)で政治家に扮している姿を観ると、彼女もそういう役をやるような年齢になったのだなという感慨が湧いてくる。ただそれでも、余が演じる防衛大臣や官房長官にはやはり独特なキレとクセがあって、まだまだヤンチャだった頃の余韻が感じられないわけではない。『ディア・ドクター』(2009年)でみせた笑福亭鶴瓶とのスリリングな"共犯"の芝居にも、その雰囲気は見え隠れしていた。
だが、最近ではそういった余韻すらまったく感じさせない、齢相応の丸みを帯びた役柄も多くなってきた。『横道世之介』(2013年)や『繕い裁つ人』(2015年)の母親役などがそうで、もちろんこれはこれでチャーミングなのだが、一方で何か物足りない気持ちも残る。同じ母親役でも、人に言えない過去を抱えたワケアリな母の方が、彼女らしいのではないだろうか。
たとえば、『おくりびと』(2008年)は、山﨑努演じる納棺師とその弟子となる本木雅弘の師弟関係が物語の軸となっているが、そこに事務員役である余の母親としての過去が絡んでくることで、より厚みのある作品に仕上がっている。彼女がかつて幼子を捨てて男の元に走ったというエピソードが加わるからこそ、作品の底に流れる親子の赦しというテーマが際立つのである。中盤の事務所でのクリスマスパーティーの場面で、本木の奏でるチェロに聴き入りながら昔に思いを馳せる、余の"表情の伏線"が巧い。
そのほかにも、『食堂かたつむり』(2010年)の、実家の敷地内で食堂をはじめた娘(柴咲コウ)につらくあたり続ける風変わりな母親役や、『麦子さんと』(2013年)の、兄妹(松田龍平と堀北真希)の家に急に転がり込んでくる生き別れの母親役も、同じように彼女の過去が物語の重要なカギになっていた。
『愛と誠』(2012年)の、かつて主人公を捨てたという、飲み屋を営む酒乱の母親役も印象深い。自ら熱唱する「酒と泪と男と女」をバックに、泥酔して客にカラむ場面は、ワケアリな母を演じ続けてきた彼女の、これまでの歩みを象徴するかのような名シーンだ。
これらの作品に回想シーンはない。余は、あくまでも現在の存在感と昔語りのみで、物語の核となる"過去"を体現してみせている。その力量は圧倒的で、見事というほかない。
高倉健の遺作となった『あなたへ』(2012年)の漁師町で食堂を切り盛りする母親役も、数奇な過去を抱えた女だった。時化の夜、「眠れないので少しつきあってくれませんか」と健さんに声をかけ、サシで静かに酌み交わしながら身の上話をする場面が実にいい。まさにワケアリ女優の面目躍如なのだが、邦画界において、過去のある男の代表であり続けた高倉健と、スクリーンの中で最後に呑んだ女は、実は他ならぬ余貴美子だったのである。何という美しい巡り合わせだろうか。心に沁みる一期一会だろうか。運命的な出会いというものは、決して映画の中だけの話ではないのだ。
次回は「田中裕子」を予定しています。
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