




小日向文世。やさしい字面だ。こひなたふみよ。まるで童話作家のようなやわらかい響きである。もちろん名前だけではない。話し方も態度も、トゲやカドがなく柔和そのものだ。『銀のエンゼル』(2004年)の慣れない仕事に右往左往するコンビニ店長、『K-20 怪人二十面相・伝』(2008年)の格差社会を憂うサーカス団の団長、『サイドウェイズ』(2009年)の気のいい自由人の脚本家など、これまで演じてきた役柄の多くは、どれもやさしくやわらかい人物ばかりだ。『いま、会いにゆきます』(2004年)と『そのときは彼によろしく』(2007年)では、両作ともに難病を抱えた若者に寄り添う町医者を演じた。中村獅童に、長澤まさみに、それぞれ包み込むように接する演技は好感度抜群だった。
そんな小日向のひとつの転機となったのは、ヤクザ顔負けの悪徳刑事をにこやかに演じた『アウトレイジ』(2010年)だろう。この役によって、彼の役者としての幅が一気に広がったのは間違いないが、それ以前にも、にっこり笑ってばっさり斬るような、彼独自の好演はいくつかあった。
たとえば『深紅』(2005年)の、妻を亡くした男(緒形直人)から保険金を騙し取る社長役などは、あたりは柔らかいがやることはえげつない役柄の典型だろう。緒形に話が違うと詰め寄られても涼しい顔で受け流し、不正なキックバックを勧めてそれで我慢するよう逆提案してくるような男である。一見紳士然としていながら、人を人と思わぬような腹の据わった悪党ぶりが実に巧かった。
痴漢冤罪裁判を題材にした『それでもボクはやってない』(2006年)の裁判長も非常にいい悪役だった。最初から主人公(加瀬亮)の無罪が観客に知らされている本作では、裁判長がいわゆる敵役になるのだが、弁護側の申し出をことごとく却下し、セオリー通りに裁判を進めていく小日向の冷淡さは、観ていてほんとうに憎々しい。終始一貫した無表情、間髪を置かない受け答え、取り付く島のない断定調の語尾、そういった小さな所作や台詞まわしを丁寧に積み重ねて、小日向は、有罪率99.9%という司法の姿を象徴的に形作っていく。時に顔をほころばせることがあっても、ばっさり斬る判断自体は変えない。そこには、絶望を事務的に手渡しされるような、得も言われぬ恐ろしさがある。
近年の作品の中では、本能寺の変のあとの後継問題と領地再配分を巡る人間模様を描いた『清須会議』(2013年)の丹波長秀役が印象に残る。柴田勝家(役所広司)、羽柴秀吉(大泉洋)、池田恒興(佐藤浩市)ら居並ぶクセ者を相手に評定を主導する長秀は、小日向にうってつけのはまり役だ。各人の権謀術数がうずまく中、彼は見事な手腕で根回しを重ね、本番の評定を仕切るだけでなく、その結果に不満を持つ織田信孝(坂東巳之助)らへの説得や、盟友にもかかわらずばっさり斬ってしまった勝家へのフォローまで行う。テキパキと抜かりのないその活躍ぶりは、切れ者の参謀という表現がまさにぴったりだが、彼の立ち居振る舞いはあくまでも穏やかで冷静だ。全力で奔走していても決してそのように見えない、いや見せないところが、実に小日向文世らしいのである。
次回は「富司純子」を予定しています。
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