




『GONIN2』(1996年)で、18歳の女子高生と称してセーラー服姿で夜の街に立つ四十路前の大竹しのぶを観た時、ある種の戦慄に近いものを感じたことは、今でもはっきりと覚えている。映画、演劇、ドラマ、そのすべてにおいて不動の地位を手に入れた女優が、こういった役を嬉々として演じる底なしの貪欲さに、なにか鬼気迫る役者の業のようなものを感じたのである。
大竹の経歴は実に華麗だ。デビュー直後から、野村芳太郎監督の『事件』(1978年)、森谷司郎監督の『聖職の碑』(同年)、山本薩夫監督の『あゝ野麦峠』(1979年)と、名監督の名作に立て続けに出演し、当然のように数々の女優賞を受ける。朝ドラではヒロインを務め、人気ドラマでも話題を振りまき、舞台に立てばまるで役が乗り移ったかのようだと絶賛を浴びる。30歳になるまでの10年強で、これだけの輝かしい実績を積み上げた役者も珍しい。
その後も、『鉄道員』(1999年)では、幼子を亡くし病に倒れる不運な女、『阿修羅のごとく』(2003年)では、自ら不倫しながらも父の不倫に戸惑う四姉妹の長女、同じく四姉妹が登場する『海街diary』(2015年)では、再婚して家を出たことが原因で長女との不仲を引きずる母親など、映画においても憑依型の名演が続く。大竹のなりきり芝居を味わうためだけに作られたような、新藤兼人監督の遺作『一枚のハガキ』(2011年)での迫真の熱演も記憶に新しい。
大竹のフィルモグラフィーを眺めていて面白いと感じるのは、こういった華々しい王道作品の合間合間で、必ず数年に一度は誰もが眉をひそめるような悪女を演じている点である。それも人間の悪徳をそのままぶちまけたような極端な役柄ばかりで、加えて大竹ならではの"なりきり"のドライブもかかっているので、もはや悪女の演技というレベルではなく怪演なのだ。この"怪演イヤー"は、偶然にもほぼオリンピックごとに巡ってくる。あのセーラー服姿も、実は'96アトランタオリンピックの年の出来事なのである。
不倫相手(永瀬正敏)を惑わせ夫殺しにまで駆り立てる妖しい人妻に扮した『死んでもいい』(1992年)。保険金殺人に取り憑かれた女を人間性が感じられない絶妙な一本調子で演じてみせた『黒い家』(1999年)。この2作で培われた色と欲にまみれた女のイメージは、その後も変奏曲のように繰り返されていく。『ふくろう』(2004年)、『ヌードの夜/愛は惜しみなく奪う』(2010年)、『後妻業の女』(2016年)と、金のためなら人殺しも厭わぬ現代の鬼女を、その都度切り口を変えながらこれでもかとばかりに大竹は演じ続ける。精神病院を舞台にした『クワイエットルームにようこそ』(2007年)のふてぶてしい古株の患者役も、人こそ殺さないまでも十二分に鬼女的な魅力に満ち溢れていた。
大竹演じる毒婦はどれも情状酌量の余地がない確信犯ばかりだが、こういった役を選んでライフワークのように演じていく彼女自身もまた、女優としての確信犯だと言えるだろう。東京オリンピックの頃に、またどんな怪演を見せてくれるのか、今から待ち遠しい限りである。
次回は「もたいまさこ」を予定しています。
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