葬儀は選べる時代です3葬儀は選べる時代です

葬儀が果たしてきた意義

 これまで見てきたように、時代とともに"自分らしさ"が重視され、葬儀も自由なものになってきました。しかし一方で、従来の葬儀が果たしていた機能や役割が失われつつあることも事実。浜名さん、尾上さん両氏ともこれを案じています。


『グリーフケア』機能

 葬儀の第一義は『葬儀はお別れの儀式である』ということです。仏式であれば、お釈迦様入滅のエピソードに則り、その時の姿勢で『北枕』で遺体を安置したり、『悲しみのあまり世界が色を失った』という表現として基本的に白い花を飾ります。自分らしさを追求できる時代にはなりましたが、儀式にはそもそもの意味があることは知っておいた方がよいでしょう。

 また、多くの人が参列していた従来の葬儀には遺族の孤独感を和らげ悲しみを癒すという機能が備わっていることも見逃せません。近年、近親者死別の悲しみを癒すことを意味する『グリーフケア』がクローズアップされるようになりました。家族葬(小規模葬)の時代になって、深い悲しみから立ち直れない方が増えているのだといいます。

 「在来の仏教の葬儀はグリーフケアそのものでした。初七日、二七日、三七日…とみんなが集まって喪主のことを慰める。そろそろ四十九日だから大丈夫だろうと。次は1年後に一周忌でまた慰め、その次は2年目の三回忌に集まっていたわけです。最近は面倒だからと親戚も呼ばず、法要も行わない。それで心が癒えないといってカウンセラーに頼る時代になってしまいました。悲しみから抜けられない人は本当に大勢いらっしゃいます。葬儀でその悲嘆をどれだけ和らげてあげられるかが私たちの仕事です。今の葬儀社はすべて何でもやりますが、当社ではご遺族にも何か大切なことを手伝っていただくようにしています。何もしなければ送ったことの実感が生まれないからです。私たちはご希望にはできるかぎり寄り添いますが、私は個人的にお別れの儀式をしてあげる必要はあると考えているので、直葬をご希望の方には『どこかでお坊さんを呼ぶなり、顔を見るだけでもいいのでお別れしたい人を集めたらいかがですか』と提案します。経済的にどうしても難しい場合などには、お別れに棺に入れていただくよう、お花を持っていくこともあります」(浜名さん)

喪主の役割

 葬儀に親戚が集まってきた理由のもうひとつに、家督相続時代の世襲表明がありました。集まった人の前で、『亡くなった故人を継いで、これからは自分がこの家の当主なのだ』と宣言していたわけです。現在でも、喪主挨拶にはその意味合いがあり、喪主のもっとも大切な仕事です。
 「喪主挨拶は、お礼の言葉をきちんと申し述べることと、残った家族がこれから頑張りますという宣言の場になります。『自分は自立する』とみんなの前で言うことは、後のグリーフを癒すためにも非常に重要です。お礼を言うことでみなさんが助けてくれるんだという確認にもなりますので、知っている人ばかりの家族葬でも喪主挨拶はしたほうがいいと考えます」(尾上さん)

<喪主と施主の違い>

 喪主と施主の違いをご存じですか? 施主は費用を負担する人で、喪主は故人に代わってご挨拶するのにもっともふさわしい人物が務めるものです。
 「たとえば、高齢の男性が亡くなった場合、ご高齢の奥様をご本人の代理人として喪主にし、お金は施主のご長男が払うというケースがあります。この場合、喪主は挨拶だけに集中でき、お金がかかる部分は施主がすべてコーディネートする。家族の中でこのような役割分担ができれば好ましいですね」(尾上さん)

エンディングノートの活用を

 『エンディングノート』──書店でもよく見かけますし、映画の題材になるなど、ポピュラーなものになっているといえるでしょう。自身の迎える死について、その前後の希望などを記しておくもので、送られる側が自分の葬儀を選べる時代になったともいえます。送る側にとっても、後に起こりがちなトラブルを避けられるだけでなく、故人の想いに寄り添っていると感じられることでグリーフケアにも役立つのだといいます。

 トラブルを避けるという意味では、特に気をつけておきたい事柄として大きく2つ挙げられます。

相続(お金)関係

 もっとも多いトラブルは、やはりお金にまつわる問題。特に来年(平成27年)からの税制改正により相続税の課税対象者が増えます。財産目録のようなものがあればベストですが、それでも浜名さんは専門家への相談を勧めます。
 「相続専門の会計士が見ると視点が違って土地の評価なども変わってきたりしますので。また、相続に関連して注意したいのは、ご家族が亡くなった時に預金を動かすことです。相続の意思があったとみなされ、後で負債があることがわかっても相続の放棄ができなくなってしまいかねません」(浜名さん)

お墓の問題

 一人っ子の時代になり、お墓を守っていくことも大変なことです。今後、お寺とはどう付き合っていくのか、合祀するのかなど、埋葬については判断が難しい問題になってきます。逆にお寺との付き合いがなく、納骨ができないというケースも出ています。お墓をどうするかについて家族で話しておきたいものです。

 エンディングノートでは、自分の希望を明確にしておくことによって、送る側のためになることが重要なポイントといえるでしょう。たとえば『延命治療を希望しない』といった、終わりを迎えるまでの本人の希望は、送る側が後悔しないことを力強く助けてくれるものです。逆に、葬儀についての希望ばかりをたくさん残されてしまうと遺族の負担になり、それが果たせなかった時の後悔につながるものにもなってしまいます。エンディングノートに希望を書き残しておくことが大切というよりも、送られる側の希望が送る側にしっかりと伝えられていることがより重要といえます。

 エンディングノートと同様の意思表示として、葬儀の生前契約を望む人が増えていると尾上さんは話します。

 「病院でかなり明確に告知されるようになったことで、あらかじめ葬儀について決めたいという方が急増しています。また、孤独になってしまったので健康なうちに、という方もおられます。告知を受けて、『最後に俺らしい、いたずらたっぷりな葬儀にしたい』と、娘さんを隣に置いて細かく打ち合わせをされた方がいらっしゃいました。このように、ご家族と話し合うシーンを大切にしていただきたい。エンディングノートも、ご家族とのコミュニケーションツールなんです。書いたことをもとに話をして、想いを理解し合うことが大切です」(尾上さん)

 葬儀について考えることは、人生をどう締めくくるのかを考えること。これを機に、葬儀社の事前相談や斎場でのイベントなどに一度足を運んでみてはいかがでしょうか。

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