多くの人が漠然と「死んだら当然入るもの」だと思っている「家」のお墓。しかし、実際にお墓を購入・維持していくことを考えると、クリアーしなければいけないハードルがいくつもあることに気づかされます。特に最近、多くの人の悩みの種になっているのが、「誰がお墓を管理・維持するのか」という問題。そのため、これまでのようなお墓とは違う、別の「お墓」の形を選ぶ人も増えてきました。どのような選択肢があり、なぜそれが選ばれるのでしょう。さまざまな弔いの形をシリーズで紹介します。

1継承者のいらないお墓

 今回のテーマは「樹木葬」です。社会学者として家族社会学やジェンダー論、葬送に関する研究に従事するとともに、「認定NPO法人エンディングセンター」の理事長として「桜葬」(樹木葬)墓地の普及活動を行っている井上治代さん(元・東洋大学ライフデザイン学部教授)にお話を伺います。

お墓を継ぐ人がいなくなる?

井上治代さん

 近年、「樹木葬」という言葉が広く社会的に認知されるようになり、その考え方への理解や共感が広がっています。理解だけでなく、実際に、自分に合った埋葬の形を求めて「樹木葬」を選択する人も大きく増えているといいます。それはなぜでしょうか。最大の要因として、井上さんは「跡継ぎ」の問題を挙げます。
 「これまでの日本のお墓は『家』を単位にしたもので、管理する『継承者』(一般には男性)がいなければ、使用・維持することができないようになっています。1990年代からはっきりわかるようになったのは、『やがて家のお墓を受け継ぐ人がいなくなる』ということです。たとえ子どもに継がせることができても、未婚率が非常に高い現在では、孫の世代以降のことは定かではありません。核家族化や少子化が進み、こうなることは以前からわかっていたのですが、社会で認知されるようになったのは、時代が進んで、そう感じる人が多数派になってきた1990年代以降のことです。」
 また、核家族化に合わせて、「家」や「先祖」に対する考え方や宗教観が変わってきたことも、要因の1つだといいます。「現在、自分のお墓のことを考える年齢になった世代(戦後に親もとを離れて核家族を形成した世代や、その子ども世代の団塊世代)では、先祖を祀る伝統儀礼を日常生活の一部として経験してこなかった人も少なくありません。そのため、お墓や仏壇などにまつわる習慣が身についておらず、『これをしなければならない(してはいけない)』という伝統的な発想がない人も多いのです。たとえ、親の意向でお墓を受け継ぐことはあっても、自分自身のこととなるとお墓に対するこだわりは弱く、『できるだけシンプルに』『子どもたちには苦労をかけたくない』と考える人が多くなってきています。」

樹木葬が受け入れられた理由

 このような社会の変化に対して、まずは一般の市民の側からニーズが生じ、NPO法人などを設立して新しい葬送の形を模索し始めます。エンディングセンターの前身である「21世紀の結縁と墓を考える会」も、同じ動きから生まれました(1990年設立)。そして、宗教法人などがこのような一般の人のニーズに応える形で受入れを始め、「永代供養墓」や「樹木葬」などが登場します。
 では、樹木葬は、これまでのお墓とは何が違うのでしょう。「樹木葬は、『自然志向』のお墓ですが、墓地として許可を得たお墓に遺骨を埋める点では一般的なお墓と変わりはありません。しかし、墓石を立てず樹木を墓標とするのが樹木葬です。お骨は、骨壺のまま埋葬する方法や、骨壺から出して直接地面に埋葬する方法、粉砕して埋葬する方法などがあります。形態にもバリエーションがあり、個別の区画が集まって1つの墓域になる『集合墓』もあれば、『合葬式墓地』といって同じ区画に皆で入る形式もあります。個別の継承者がいなくてもお墓を購入・維持することが可能な点では共通しています。」(井上さん)

自然に還るのが一番いい

 1990年代に登場した継承者のいらないお墓を最初に望んだのは、子どものいない夫婦や単身者など、つまり、継承者がいないため「家」のお墓を持つことができず、別の方法を選ぶことを余儀なくされた人がほとんどでした。しかし、現在、「樹木葬」を選ぶ人は、自分の意思で「子どもが継がなくてもいい」と考えている人が多いそうです。
 「私たちが行った意識調査では、購入者には結婚している方もしていない方もいらっしゃいますし、およそ76%の方はお子さんをお持ちです。ということは、必ずしも継承者がいないわけではない。時代が変わって、自分から『子どもを縛りつけたくない』と考えることが当たり前になってきたということだと思います。」(井上さん)
 「家のお墓」に対する考え方の変化とともに、お金をかけず、自分なりの葬送・埋葬を望む人が増えてきたことも、樹木葬が選ばれる理由です。井上さんが指摘するのは「自然志向」。90年代以降、顕著になってきた傾向だといいます。「例えば、高度経成長期には、きらびやかな造花が流行しました。それがやがて、生花のほうが自然だと考えられるようになり、現在では、野に咲く花がより好ましいという感覚を持つ人が多くなった。お墓も、木を切り倒して開発した土地に立派な墓石を立てるよりは、木々に囲まれ、自然に還っていくのが一番だと考える人が増えて、『樹木葬』が受け入れられるようになったのです。」

■なぜ「桜葬」?

 エンディングセンターが企画する「桜葬」(樹木葬の一種。次のページで紹介)では、元気なうちから埋葬される区画を購入するのが一般的です。皆さん、なぜこの形を選んだのでしょうか。会員の方に伺ったところ、「継承者がいない」「大変なお墓の管理を子どもたちに負わせたくない」「人任せにせず、終わりのことは自分で始末をつけたい」といった声が大勢を占めました。
 一方、自然に対する思いも強く、「『自然に還る』というイメージが好きだった」「山の中にあって、風が吹き、清水が湧いている。このロケーションを見て決めた」という方もいます(写真)。ところで、「自然に還る」という点では、「散骨」も同様です。あえて、「桜葬」を選ぶのはなぜでしょう。こんなお話をしてくれた方がいらっしゃいました。
 「私がこちらで区画を購入した後、夫の遺骨を散骨したという女性から話を聞きました。『散骨の場合、遺骨を祀る場所がないので、亡くなった夫への思いをどこに向けていいかわからず、ずっと気持ちが落ち着かなかった。その後、一部残していたお骨をこちらに埋葬することができ、やっと安心できるようになった』ということです。お墓は、生きている人の心の拠り所でもあるんですね。そういう意味で、私は『桜葬』を選んでよかったと思っています。」

(提供:エンディングセンター)

 次のページでは、エンディングセンターが企画する「桜葬」(樹木葬)についてご紹介します。

 

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