2働き盛りの認知症で生活が一変

働き盛りで認知症をわずらったBさん(45歳・営業課長)の事例を紹介します。

職場では…

 Bさんは毎朝、定時に会社に出勤します。日常会話で目立った問題はみられないのですが、最近、仕事上のミスが目立ち始め、段取りよく仕事をこなせません。うまく対処できないことをBさん自身もときどき不安に感じるのですが、家庭では特に問題はなく、専門医療機関での受診を誰かに勧められることはありませんでした。

 一方、Bさんの同僚からは、部長のところにこんな苦情が寄せられます。「Bさんは最近ミスが多過ぎる。そのミスをフォローするために時間が費やされて、自分の仕事がさっぱり進まない。Bさんに何度注意してもミスは減らないし、反省している様子もない。Bさんをこのまま放っておいたら、周囲が迷惑だし、取引先の信頼だって失いかねない」、というものでした。

 うつ病を疑った部長のすすめで、Bさんは職場近くの診療所を訪れ、やがて大学病院の精神科で、神経心理学的検査や脳画像検査を受け、若年発症のアルツハイマー病初期と臨床診断されました。

 Bさんはしばらく入院し、その後自宅療養を行って症状はだいぶ改善されたように思えました。そこで、本人や家族の希望により1年後職場復帰、Bさんは元の営業部に戻らず、会社の配慮により、資料課へ異動になりました。Bさんに任された仕事は資料の整理やコピー、とそれほど難しくはない仕事ですが、Bさんはぼんやりしていることが多く、なかなか仕事がはかどりません。結局は他の社員が肩代わりすることになります。見かねた上司は家族やBさんの主治医と相談し、Bさんは退職することになりました。

家族の生活は…

 Bさんは、自宅では妻に起こされて身支度をし、妻が作った食事を食べて会社へ行き、帰宅したら用意された風呂に入って寝るだけ、という生活パターンでしたので、アルツハイマー病が発症していても実行機能の障害が露呈することもなく、会社から連絡をもらうまで家族は変化がわかりませんでした。

 働き盛りの世代を襲う「若年性認知症」の発症は、家族にとってもダメージが大きく、当初、Bさんの妻もそうした事態を否定することで自分の心の平衡を保とうとしました。それでもBさんの病態が露呈するにつれ、事実を受け入れざるを得ません。一家の大黒柱が働けなくなり、やがて寝たきりという予期せぬ事態が起こり、介護をする妻には精神的にも経済的にも負担が重くのしかかりました。現在は貯蓄や退職金を取り崩して生活していますが、将来のことを考えると、夫の様子を見てパートに出ることも考えています。


収入減と嵩む医療費・介護費

厚生労働省の調べでは、若年性認知症の発症後、7割の人の収入が減少しています。若年性認知症は40歳以上であれば65歳に達していなくても公的介護保険(1割)が適用されますが、公的介護保険で対応しきれないサービスについては全額自己負担となります。一般に若年性認知症の場合、身体的な衰えを伴う高齢者の認知症と比較すると、介護の負担が大きいといわれます。また、医療費の負担もかかります。それも、一時的なものではなく、生涯かかる医療費です。収入減のところへ嵩む介護費と医療費のことを考えると、若年性認知症が与える経済的なダメージがどれほど大きいかおわかりでしょう。

子どもの将来は…

 Bさんの子ども2人は、まだ高校生と中学生です。働き盛りの父親の認知症が進行し、退職を余儀なくされれば、子どもの将来にとってもダメージは大きく、家族の生活費のために大学進学を断念せざるを得ない状況になりました。将来、就職や結婚にも影響がでないかと心配です。

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