「傾聴」とは、字のごとく「聴く耳を傾ける」のことを言います。一人で悩んでいるときに、「誰かに話を聞いてほしい」「話を聞いてもらうだけでも少し気持ちが楽になった」という経験をした方も多いでしょう。そんなニーズに応えるべく、その方の自宅を訪問して、依頼者の話し相手になるのが「傾聴ボランティア」です。一人暮らしの高齢者が増加するなかで広がりつつある「傾聴ボランティア」ですが、それはどんなことが求められ、どんな効果があるのでしょうか。傾聴ボランティアを受けたい人、傾聴ボランティアをしたい人、その両方の視線で考えてみました。 

取材協力をいただいた方たち:

世田谷ボランティアセンターに勤務する鈴木佑輔さん。

世田谷ボランティアセンターに勤務する鈴木 佑輔さん。

 傾聴ボランティアの活動を早くにスタートさせた「世田谷ボランティア協会」市民活動推進部の鈴木佑輔さんにお話しを伺い、傾聴ボランティアの研修を受けている皆さんの声を聞くことが出来ました。

 「世田谷ボランティア協会」は1981年に発足し、「地域が抱えるあらゆる問題を住民の力で解決していく」をコンセプトに、様々な活動を行なってきました。7年前にスタートした傾聴ボランティアですが、「話し相手を探している」といった問い合わせが多く、現在は約80人のボランティアが稼働しています。

1話し相手が欲しい

孤独な高齢者

 依頼者の多くは、ケアマネジャーを通しての相談が一番多くなっています。次に多いのが家族や本人からの直接の依頼です。本人が認知症のため家族が依頼してくるケースもあります。どんなケースであれ、依頼者本人が、「話しに来てほしい」と望んでいれば、自宅に伺ってお話を聞きます。世田谷ボランティア協会の現在の利用者は9割が女性です。その年齢層は20~90歳代までと幅広く、あらゆる世代に求められていることがわかりますが、半分以上は目や足などが悪くなり、外出の機会が減ってしまった、人と会う機会が少なくなってしまった高齢の方たちが占めます。

【こんな高齢者が増えている】

 *一人で暮らしていて、寂しい…

 *家族や友人が亡くなってしまって、身近に話す相手がいなくなってしまった…

 *誰かと話がしたい…

話を聞いてほしいと思ったら…

 誰かに話を聞いてほしいと思っても、身近に家族や友人がいない、そんなときはボランティアを頼るのも一つの手段です。世田谷ボランティア協会では次のようなプロセスを経て傾聴ボランティアがスタートします。世田谷区以外にもこうしたボランティアが行われている地域は多いのですが、よくわからない場合はお住いの地域の「地域包括支援センター」に問い合わせてみてはいかがでしょうか。

【傾聴ボランティアを申し込むと…(世田谷ボランティア協会の場合)】

傾聴ボランティアを申し込むと…

傾聴の効果

 話を聞いてもらうだけで、どれほどの効果があるのでしょうか。傾聴は自分を受け入れてもらうことです。相手は決してアドバイスすることも否定することもありません。そうして、「わかってもらえた」「受け入れてもらえた」と感じられると気持ちが楽になることができます。

 楽になれても一時的なのではないかと心配する方もいるかと思いますが、傾聴ボランティアは1回限りではなく、依頼者が望んでいる間は定期的に行われます。何度か顔を合わせて話を聞いてもらうことで、更に信頼関係が深まり、最初はよそよそしかった依頼者も自分からスタッフを迎え入れるようになると言います。

鈴木さんの体験

 長年介護をし、ご自宅でみとられた方から「さみしくて仕方ない」と世田谷ボランティア協会に電話がありました。鈴木さんがその女性の自宅に行くと、女性はカーテンも開けていない部屋で座っていました。彼女は話し出し、気付けば2時間半が経過していました。その方は別れ際、定期的に話しに来てほしいと訴えたそうです。それから訪問する度に、女性の印象が明るく変化していきました。最初は髪型、次に服装が変わり、化粧をしたり、マニキュアを塗ったり。「話しをすること、人と関わることで、こんなにも人は変われる!」こうした気づきが活動をさらに広げる発端でした。

話の内容は秘密厳守

 ボランティアと依頼者の関係は全て信頼関係の上に成り立っていますから、傾聴という行為にも必ずルールがあります。

 依頼者から聞いた話は決して漏らすことはありません。月1回程度、傾聴ボランティアで集まり、その場限りの約束で話し合いは行います。ボランティアの時間は1時間程度ですが、金品は受け取らない決まりになっていますので、お客さんを迎えるような気遣いは一切不要です。ただ、お菓子を出されることもよくありますので、状況を見てありがたくいただくようにしています。依頼者は、飽くまでも自分が話したいこと、聞いてほしいことだけを気持ちのままに伝えればそれで良いのです。

 ただし、高齢者の場合、話を聞いてもらっている間に急に体調を崩す心配もあります。一人暮らしの方は目立つ場所に「緊急連絡先」を貼っておけば、もしものときにスタッフも的確に対処することができ、お互いに安心です。

こんな場所も利用できる

 自宅にスタッフが来ることに抵抗がある人や、もっと他の人とも交わりたい人…さまざまなニーズに応えるために、カフェやサロンなど活動の場所は増えています。お住いの近くに、こうした「心の拠り所」を探してみてはいかがでしょうか。

【世田谷ボランティア協会の取組】

 世田谷のボランティア協会では、「一人で寂しい」、「心の拠り所が欲しい」といった高齢者の悩みを少しでも解消できるよう、こんな場所も提供しています。

◆しゃべりば・ホッとカフェ(月に1回・2時間程度)参加費:100円

…みんなで集ってお喋りできる場。介護する側、家族の方々が集まってお喋りできる場。

◆おしゃべりサロン(月に1回・2時間程度)参加費:100円

…みんなで集まってお喋りできる場。依頼人が傾聴ボランティアを希望していても、「見ず知らずの人を家に入れるのは心配」と心配する家族もいます。そういう方には、この場に来て、喋れる機会を、ということではじまった活動です。

◆しもうま夕ごはん会(月に1回・3時間程度)参加費:500円

…「独りで夕ごはんを食べるのが辛い」という声に応えることで始まった夕食会。それに伴い、年末年始も同様の依頼が多いなか、昨年からスタートしたのが、「みんなでお雑煮を食べよう」の会。2018年は1月2日に開催されました。

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