「第3号被保険者」を学ぶ②

『離婚と年金』を学ぶシリーズ、2回目はQ&Aです。
「離婚」というネガティブな内容だからこそ、他の方には聞きにくいものです。
皆さんが疑問に思われる「年金分割」について、この場を借りてお答えしたいと思います。

そもそも離婚したら、いくら年金をもらえるの?

離婚を検討しています。
実際、離婚後の年金がいくらになるのか、教えて下さい。

離婚に至るまでの間のお二人の働き方によって年金額の計算方法が変わります。
2つの事例をもとに、試算してみます。

年金「ちょこっと」解説
(シミュレーション)

■前提条件■

夫30歳:1ヶ月の給与:300千円(=「標準報酬月額」:300千円とします。)です。
妻は28歳で結婚しました。
妻は結婚した時から『専業主婦』であったとします。

結婚から10年後に離婚したと仮定し、年金額をシミュレーションしてみます。
妻が離婚後2年以内に請求すれば『3号分割』の対象です。(※前回記事参照)
なお、婚姻期間はすべて2008(平成20)年4月1日以降とします。

《イメージ図》

「3号分割」のイメージ(図解)

夫は、同じ会社で40年間ずっと同じ給与(300千円/月)であったとします。

その場合の妻の『老齢厚生年金』は、概算で下記の通りです。
なお、わかりやすくするため、賞与は考慮に入れていません。
すべて2003(平成15)年4月以降の給与とします。また、再評価率は除きます。

■夫の『老齢厚生年金』を計算します。

300,000円×5.481/1,000×480ヶ月 ≒ 79万円/年

10年間は『老齢厚生年金』が分割(妻へ移管)されます。
そうすると、
300,000円×5.481/1,000×120ヶ月(「10年間」分です。) ≒ 20万円/年

この金額(20万円/年)が分割の対象となります。
20万円を夫と妻に半分ずつ、夫に10万円、妻に10万円となります。

よって、は79万円-10万円=69万円/年が『老齢厚生年金』となり、の『老齢厚生年金』に10万円/年が加算されることになります。

では、次の事例をご紹介します。

■前提条件■

今度は、夫30歳(上記と同じく標準報酬月額:300千円)、妻28歳で結婚とします。(前述の事例と同じです。)
ただし、妻は結婚した後も会社員(標準報酬月額は200千円とします。)として働き、10年で離婚をした場合を想定します。

つまり、共働き世帯のケースです。
なお、前述の事例と同じく、妻が離婚後2年以内に請求すれば合意分割の対象です。
また、50%ずつで分割合意できたとします。

《イメージ図》

「3号分割」のイメージ(図解)

では、先程と同様に計算してみましょう。

夫は先程と同じ計算をすると『老齢厚生年金』は79万円/年ですね。
そして、婚姻中の10年間の『老齢厚生年金』も同様に20万円です。

■妻の『老齢厚生年金』を計算します。

そして、妻は、この10年間で、自分の年金として
200,000円×5.481/1,000×120ヶ月 ≒ 13万円/年
の『老齢厚生年金』を積み上げています。

そうすると、差額が20万円-13万円=7万円です。
これを50%(半分)ずつで分割するので、

夫の『老齢厚生年金』は
79万円-(7万円×50%)= 75.5万円/年 となり、
妻の『老齢厚生年金』は7万円×50%=3.5万円/年 が増額されることになります。

これを高いと見るか安いと見るかはともかく、ポイントとしては婚姻中については年金も2人の共有財産と見られるということです。

『年金分割』のイメージは上記のとおりです。
実際の年金額は、1年毎に再評価率を掛けたりする等、複雑な計算を行います。
もし、正確な年金額を確認したい場合には、最寄りの年金事務所または街角の年金相談センターで確認されることをお勧めします。

【ご参考】
『老齢厚生年金』の計算方法は、下記ページをご参照ください。
「年金はいくらもらえるのか?」を学ぶ③~老齢厚生年金の計算の仕方~

そもそも、離婚相手の年金額がいくらかわからない

うーん、計算したいけど、
そもそも、夫の年金額がいくらかわからないのです。

「年金分割のための情報提供請求書」を年金事務所に提出しましょう。

年金『ちょこっと』解説

「年金分割のための情報提供請求書」を年金事務所に提出しましょう。
お2人で、上記書類を請求した場合には、それぞれに「年金分割のための情報通知書」を交付します。
また、お1人で請求をした場合や既に離婚をしている場合では、それぞれに同通知書が交付されますが、離婚前であれば、請求者のみに同通知書が交付されます。
つまり、取得しても相手にはわからない、ということですね。

なお、添付書類としては戸籍の謄本など、当事者双方の身分関係を明らかにできるものが必要となります。ただし、そもそも年金分割の請求期限は2年であるため、離婚から2年経過した後は請求ができなくなります。ご注意ください。

※「年金分割のための情報提供請求書」は下記ページをご参照ください。
離婚した場合、年金はどのように分割されますか?

既に離婚済なのですが、年金分割なんてできるのでしょうか。

少し前に離婚しました。
離婚の時は、年金の事など考えられなかったのですが、やっと落ち着いてきました。
いまからでも年金分割はできるものなのでしょうか。

はい。
離婚後2年以内であれば、年金分割の請求が可能です。

ただし、合意分割の場合、特に離婚後だと、そもそも合意に至るまでの過程で苦労することが多いです。
なお、3号分割であれば、一方の請求だけで分割をさせることが可能です。

年金『ちょこっと』解説

婚姻中から「年金分割ができることを知っておいてください」というのも縁起のいい話ではありません。
しかし、現実的にそれを知っていると知っていないとでは、年金世代になってからの受取額が違うことになります。頭の片隅にでも入れておきましょう。

「合意分割」したいのですが、相手側が合意に応じてくれません。

年金の「合意分割」をしたいのですが、相手側がどうしても合意に応じてくれません。どうすれば良いでしょうか?

「裁判所」に年金分割を決定してもらうことができます。
相手側が合意分割に応じてくれない場合、それを家庭裁判所の調停または審判に持ち込み、調停員を挟んで話し合いを進めることが可能となります。

年金『ちょこっと』解説

最終的には「裁判所」が年金分割割合を決定します。

もっとも、この話、裁判所まで持ち込みたいですか?
この質問にYESという方はいないでしょう。
特に日本では協議離婚が認められているので、できるだけ当事者同士の話し合いだけで解決できた方が、時間も心の傷も浅くてすみます。

その意味では、合意に持ち込めるように、夫婦できちんと話し合うことが大事であると私は考えております。

すでに年金を受給している場合には?

既に年金をもらっています。
離婚することになりましたが、年金受給者であっても年金の分割はできますか。

はい。できます。
年金の受給者であっても年金分割は可能です。
ただし、一定の注意事項があります。

年金『ちょこっと』解説

年金の受給者であっても離婚すれば「年金分割」はできます。
一定数の熟年離婚というのはありますし、年金世代だと年金収入が変わるとリカバリーが現役世代に比べて難しいという側面もありますので、「年金分割」はしっかりと行った方が良いでしょう。

ただし、注意点は、既に受け取っている年金については対象外になるということです。
あくまで離婚が成立した時点から年金分割が始まることになります。
なお、離婚前までは共有財産ですから、遡及されることはありません。

人生は上手くいかないから…

結婚するときに離婚を考える人は多分いないと思います。
それでも3組に1組に離婚する時代、自分にその気がなくても、どんなに自分に責任がなくても、それはやってくる可能性があります。
離婚は人生を前向きに生きる選択であり、恥ではありません。

ただし、相手側が「ただ嫌だ」という理由で、話し合うという当たり前の解決方法を取らない場合があります。
大人として結婚という選択をされた以上、その選択に責任を持ち、話し合うという場から逃げてほしくはありません。
お金のこと、子どものこと、そして年金のことも、一度は愛し合ったはずの相手と、まずは話し合いをする努力をしていただきたいと思います。
それが年金を受給する世代になった時に生きてくるのだと私は思います。

- 次回予告 -

『遺族厚生年金』改正を学ぶ
~「どのようなもの」で「どのような影響」があるのか~

次回、くらしすとEYEの年金を学ぶ【第42回】では、
"『遺族厚生年金』改正を学ぶ
~「どのようなもの」で「どのような影響」があるのか~"
を更新予定でございます。
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