平成31年度の政府予算案が、平成30年12月21日に閣議決定されました。財務省のHPにアクセスすると、先月号で記した年金生活者支援給付金の対象者数や金額が公表されています。これまでの公表されてきていた約800万人という数字よりも2割ほど多くなり、予算措置上は約960万人となっています。現在、老齢年金・通算老齢年金・障がい年金・遺族年金を受給している人数は、約3,386万人(注1)なので、おおよそ3割近くの人が該当すると見込まれることになります。
制度がスタートする頃になると、メディアでも報道されてきますので、そうすると該当しない人も、「自分は該当するのではないか?」「自分はいくらもらえるのか?」と、年金事務所や市役所、金融機関に相談にみえられるかもしれません。
ということで、今月も「あれっ?」と思う素朴なQ&Aから、話を進めていきます。Q&Aのクエスチョン番号や図表のナンバリングは、先月号からの続き番号としています。
年金生活者支援給付金は、請求しないと受給できないのか?
~ターンアラウンドは9月送付予定!~
(4)年金生活者支援給付金は、
年金受給者に自動的に振り込まれてこないのか?
給付金の請求書・ターンアラウンド(TA)のイメージ図
Q4 私は、国民年金の保険料を480月納付し、現在、老齢基礎年金を満額の779,300円受給しています。ほかに収入はありません。先月号の記事を読むと、私には、毎月5,000円の年金生活者支援給付金が振り込まれる計算になります。私の年金の受給データは、厚生労働省でもわかっているはずなので、自動的に金融機関の口座に振り込まれるのですか? それとも、何か書類が送られてきて、手続きが必要なのでしょうか?
A4 記事をお読みいただいてありがとうございます。
残念ながら、自動的には振り込まれません。
日本年金機構から、書類が郵送されてきますので、【図表8】の『年金生活者支援給付金請求書』と印字されたターンアラウンドの様式の「はがき」に氏名を自署されて返送してください。これを日本年金機構に郵送することで、給付金の請求をしたことになります。所得を証明するような書類や住民票などについては、とくに添付する必要はありません。
ただ、たいへん申し訳ありませんが、切手代(62円)がかかります。
国民年金の第1号被保険者だけの期間しか有しない人であったとしても、原則として、日本年金機構に郵送することとされています。
【図表8】はがきサイズのターンアラウンド(TA)
−あくまでもイメージ図のサンプルです。実際のものとはの異なります−
なお、この書類には【図表9】のような説明書きも記されています。
【図表9】を見るかぎりでは、ここに、給付金の見込額(月額)が印字されてくるものを思われます。
【図表9】はがきサイズに記載された『年金生活者支援給付金』説明書き
基礎年金は「裁定請求」、支援給付金は「認定請求」
なお、法律上は、基礎年金などの年金の請求は「裁定請求」、年金生活者支援給付金の請求は、「認定請求」と言葉を使い分けていますが、窓口の相談では、「給付金をもらうための手続きの相談で来たのですが……」で、よろしいかと存じます。
受給するために大切なことは、「請求書」を提出するということです。
ターンアラウンドの送付は9月を予定!
Q4の相談者のように、すでに、年金の裁定請求を終えていて、日本年金機構で受給資格者と確認できた人には、平成31年(2019年)9月に、日本年金機構から【図表8】で見ていただいたような、ターンアラウンドが郵送されてくる予定になっている、とのことです。
わざわざ、市役所や年金事務所に足を運ぶ必要はないとのことです。
とはいえ、いくらもらえるか気になるところなので、相談にみえられる人もいらっしゃると思いますので、そのときは丁寧な対応をお願いしたいと思います。
(5)補足的老齢年金生活者支援給付金の計算は、どのように行うのか?
付加保険料を納付していると、老齢年金生活者支援給付金が受給できないのか?
Q5 私は、国民年金の保険料を480月納付し、手厚い老後をということで、付加保険料も240月まじめに納めてきていました。現在、約82万円ぐらいの老齢基礎年金(付加年金を含む)を受給しています。ほかに収入はありません。夫と2人暮らしですが、夫も私も市民税は非課税です(世帯全員が非課税)。
先月号の記事を読むと、私は、老齢基礎年金の満額である約78万円以上の年金収入があるので、そうすると、毎月5,000円の老齢年金生活者支援給付金はもらえないということなのでしょうか?
A5 記事をお読みいただきましてありがとうございます。
たしかに、相談者と同じ条件で、老齢基礎年金の満額である779,300円を受給している人は、毎月5,000円の老齢年金生活者支援給付金(これからは「老齢給付金」と記述することもあります)が支給されます(詳細は平成30年12月号をご参照ください)。
しかしながら、付加保険料を納付し、約82万円の年金を受給している相談者には、「老齢給付金」は1円も支給されません。老後に少しでも厚みのある年金をということで、付加保険料を納付していた人に、「老齢給付金」が支給されずに、納めていなければ「老齢給付金」が支給されるというのでは、やはりどこかおかしくはないでしょうか。そんな制度設計では、理屈が通らないのではないでしょうか?
相談者の事例になぞらえて申し上げると、せっかく付加保険料を納めてきたのに、納めなかった人の年金収入との逆転現象が起きてしまうので、それを補うために設けられたのが、「補足的老齢年金生活者支援給付金」ということになりましょうか(これからは「補足的老齢給付金」と記述することもあります)。
平成25年2月20日(水)に開催された「全国厚生労働関係部局長会議」 における「年金局 説明資料」 によれば、
「所得の逆転を生じさせないよう、上記の所得基準を上回る一定範囲の者に、上記①に準じる補足的老齢年金生活者支援給付金(国民年金の保険料納付済期間を基礎)を支給する。」と記されています。
「所得の逆転を生じさせないよう」に、制度設計されたのが、「補足的老齢給付金」ということになります。
実は、「年金生活者支援給付金の支給に関する法律 (平成24年法律第102号)」(以下、「年金生活者支援給付金法」と記す)は平成24年11月16日に成立しました。その後最初に開催されたのが、平成25年2月20日(水)の「全国厚生労働関係部局長会議」なのかもしれません。
【図表10】【補足的老齢給付金を理解するためのイメージ図】をご覧ください。
「補足的老齢給付金」をわかりやすくするために、先月号の【図表1】を強調し加工・色づけしました。
【図表10】補足的老齢給付金を理解するためのイメージ図
「補足的老齢給付金」は、対象者が約100万人から約160万人に増加!
「補足的老齢給付金」の対象者数は、平成25年2月20日(水)開催の「全国厚生労働関係部局長会議」における「年金局
説明資料」では、約100万人とされていましたが、平成31年度の政府予算案を見ると、約160万人とされており、当時と比べ6割増の見込者数となっています。
それだけに相談者がみえる可能性が高いともいえますし、先月号で触れましたように、収入と所得は分けて理解しなければいけないので、説明の仕方は容易ではないと思います。
「補足的老齢給付金」の額は、法律ではどのように規定されているのか?
「補足的老齢給付金」の金額は、年金生活者支援給付金法で、どのように計算すると規定されているのでしょうか?
【図表10】【補足的老齢給付金を理解するためのイメージ図】の右下側にイメージ図化されている青い丸で囲ったピンク色の実線の部分です。
年金収入が増えるにつれ、「補足的老齢給付金」の額が減るということは、イメージ図ではなんとなくわかるのですが、法律で条文を規定するのはかなり難しいと思いますし、それを読み解くのは、もっと難しいと筆者は感じています。
それでは、年金生活者支援給付金法と平成30年12月28日に公布された年金生活者支援給付金法施行令(政令第364号)の関係条文を見てみましょう。
【図表11】と【図表12】をご覧ください。
【図表11】法で規定された補足的老齢給付金の金額
(補足的老齢年金生活者支援給付金の額)
第11条
補足的老齢年金生活者支援給付金は、月を単位として支給するものとし、その月額は、当該老齢基礎年金受給権者を受給資格者とみなして第3条の規定を適用するとしたならば同条第一号に規定する額として算定されることとなる額から、その者の前年所得額の逓増に応じ、逓減するように政令で定める額とする。
【図表12】施行令で規定された補足的老齢給付金の金額
(法第11条に規定する政令で定める額)
第7条
法第11条に規定する政令で定める額は、老齢基礎年金受給権者を受給資格者(法第5条第1項に規定する受給資格者をいう。)とみなして法第3条の規定を適用するとしたならば同条第1号(第29条又は第33条の規定により読み替えて適用する場合を含む。)に規定する額として算定されることとなる額に調整支給率を乗じて得た額(当該乗じて得た額に50銭未満の端数が生じたときは、これを切り捨て、50銭以上1円未満の端数が生じたときは、これを1円に切り上げるものとする。)とする。
2 前項の調整支給率は、第1号に掲げる額を第2号に掲げる額で除して得た率(その率に小数点以下3位未満の端数があるときは、これを四捨五入して得た率)とする。
一 補足的所得基準額から老齢基礎年金受給権者の法第2条第1項に規定する前年所得額を控除して得た額
二 補足的所得基準額から第1条に定める額を控除して得た額
「補足的老齢給付金」の額を、算定式で示すと…?
条文を読んでもなかなかわかりにくいということが、ご理解いただけたかと思います。
具体的な数字を入れ込んでいかないと、年金がらみの制度は理解しづらいと思いますので、Q5の相談者の事例を踏まえ、老齢基礎年金の満額受給者(779,300円)のAさん(国民年金納付済480月)と付加保険料240月納付済で老齢基礎年金と付加年金額を合わせて年額827,300円(老齢基礎年金は満額の779,300円・付加年金の金額:48,000円)を受給しているBさんの事例で比べて見ていきましょう(【図表13】【図表14】参照)。
【図表13】 AさんとBさんの老齢基礎年金と給付金の受給額
【図表14】 補足的老齢給付金の算定式とBさんの金額
【図表13】で示したように、「老齢給付金」の支給だけですと、Aさんの収入(779,300円に「老齢給付金」60,000円が加算され839,300円になる)とBさんの収入(827,300円)が逆転してしまいます。
この「逆転を生じさせないよう」に、制度設計されたのが、「補足的老齢給付金」です。
Bさんに「補足的老齢給付金」31,200円が加算され、858,500円
となり、Aさんとの収入の逆転は解消されます(すでに、述べたように厚生労働省の平成25年2月の資料では、「『所得』の逆転を生じさせない」と記されているが、『所得』と『収入』を使い分けて厳密に表記すると、逆に混乱するためと思われる)。
「補足的老齢給付金」の算定式については、【図表14】のとおりですが、「補足的所得基準額 879,300円」については、施行令第6条に規定されています。
なお、参考までに、付加保険料を480月納付していたCさんの事例を【図表15】【図表16】に記しましたので、ご参照ください。
老齢基礎年金(779,300円)と付加年金の年金額(96,000円)を受給していたCさん(年額875,300円)には、「補足的老齢給付金」は年額2,400円支給されることになりますが、仮に昭和49年(1974年)1月当時、国民年金保険料がまだ月額900円のときに、付加保険料月額400円を納めていた人だとすると、つまり当時、苦労して、国民年金保険料の半額近い金額を納めていた人だとすると、付加保険料を納めていなければ、給付金が月額5,000円もらえて、毎日の生活を切り詰めて、将来のことを思って付加保険料を納めてきたら、給付金が月額200円になってしまったとするならば、少し複雑な思いがするのではないでしょうか。
付加保険料を480月納付していたCさん(年額875,300円)に、
「補足的老齢給付金」はいくらぐらい支給されるのか?
【図表15】AさんとCさんの老齢基礎年金と給付金の受給額
【図表16】Cさんの補足的給付金の算定式
保険料免除期間は、「補足的老齢給付金」の金額に反映されない!
「老齢給付金」には、保険料免除期間も金額に反映されますが、「補足的老齢給付金」には、保険料免除期間の期間は、金額に反映されません。
確認のために、【図表17】を掲げておきます(先月号の【図表5】と基本的に同じです)。
【図表17】
(6)年金生活者支援給付金を3つの類型に整理する!
年金生活者支援給付金は「老齢」「障がい」「遺族」
年金生活者支援給付金は「老齢」「障がい」「遺族」の3つに整理されます。基礎年金と同じです。
「老齢」には、「補足的老齢」もあると理解するといいと筆者は思います。
また、名称が長いので覚えるのにたいへんですが、「老齢」と呼称したあとに続けて、「年金生活者支援給付金」と言えば、すんなり口(くち)がまわります。
「障がい」も然りです。「障がい」と言って、一呼吸開け、「年金生活者支援給付金」と言えば、いいことになります。
その辺をまとめたのが、【図表18】です。
『@』(アットマーク)のところを、「年金生活者支援給付金」に置き換えてもらえばいいという構造になっています。
【図表18】
年金生活者支援給付金は、「年金」ではなく、「給付金」!
年金生活者支援給付金は、一定の要件を満たす老齢基礎年金や障がい基礎年金、遺族基礎年金の受給者に支給されるものです。
したがって、年金生活者支援給付金を基礎年金の上乗せ部分の年金と思っている人もあるかもしれませんが、制度の成立過程からすると、「年金」ではなく、「給付金」です(*)。
ですから、略して記すときは、「老齢給付金」 「補足的老齢給付金」「障がい給付金」 「遺族給付金」 とするのが、的確な情報を伝えることになると思います。