兵庫県宝塚市 市民交流部市民生活室窓口サービス課
窓口カウンターの内側からの視線と外側からの視線を行き交わせる
― 宝塚市といえば、「宝塚歌劇」のまちだとだれもが知っていますね。
橋本 ありがとうございます。かつては農村だった宝塚に、阪急電鉄創始者の小林一三氏が大阪まで続く鉄道を開通させ、その鉄道路線をベースに住宅開発や温泉とレジャーを中心とする観光振興を行ってきたというのが宝塚の歴史の幹になっています。また、一三氏は大都市のサラリーマンをターゲットに、住宅と土地を月賦で売るという方法を採用しました。これは日本の住宅ローンの先駆けだと言われています。こうしてつくられたまちにはかつての村社会の共同体意識やしがらみはなく、家族を中心とする生活が広がっていったので、ある意味で宝塚市には日本の近代社会の縮図があると言えるかもしれません。
また、宝塚市は漫画家の故・手塚治虫氏が多感な少年時代を過ごした地でもあることから、宝塚市立手塚治虫記念館があります。2014年は、宝塚市は市制60年、宝塚歌劇は100周年、手塚治虫記念館が20周年というトリプル周年を迎えました。また2015年は阪神大震災から20年という節目の年でもありました。
― 宝塚市の国民年金業務の様子について教えてください。
橋本 国民年金業務は、「市民交流部 市民生活室 窓口サービス課」のなかで行っていて、担当職員は正職員が私(担当3年目)を含め3名、臨時職員が1名です。また、2015年4月からは、兵庫県社会保険労務士会に依頼して、社会保険労務士1~2名も窓口に配置しています。
― 1日何件くらいの相談がありますか。
橋本 窓口に来る相談は1日約50件です。なかでも一番多いのは、第1号被保険者の届け出や免除に関する相談ですね。平成29年4月から年金の最低受給資格期間が25年から10年に短縮されるので、ご自分の記録をきちんと整備しておきたい方が増えているように感じます。また、障害手帳を持ちこれまで生活保護を受給していた方がケースワーカーと一緒に窓口に来て、年金が受給できるかどうかを相談するケースも多いですね。初診日の確認が取れて要件をみたせば、5年前までさかのぼって障害基礎年金を受給できる可能性があります。そのぶん生活保護の負担が減りますから、社会保障に必要な税財源を抑えることができます。国も市も助かります。
また、年金は自分の権利ですから、基本的に好きなように使える。地域経済にとっては非常に重要な資産と言えます。
だから、例えば障害年金の認定基準に地域差がある、などということは許されないことです。厚労省も対応しているようですが、我々市職員はもっと怒らなアカン(笑)必要としている人には、可能な限りしっかりとお支払いをしていかなければいけないと思います。
また、一般の方々にも「年金は権利として受け取るもの」であり、きちんと手続きを踏んで年金を受給することで「結果的に地域経済を支えている」という認識をもってもらえたらうれしいです。そのために市役所で相談して、有利な納め方を選択したり、支払いがしんどい時には免除を受けていただきたいなと思いますね。
― どんな取り組みをしていますか。
橋本 私は、市役所の窓口カウンターが、行政の世界のフロントラインだと考えています。一般の方から見たときに、「お役所の世界」と「シャバ(?)の世界」の境界線みたいな。
でも、そこが本当の壁になってしまうとまともな仕事はできない。市職員は、行政の立場から制度の趣旨を説明する専門家の視線と、市民の立場から権利を追及する当事者の視線との両方を持つべきだと思うのです。それをバランスさせたところに本当の公(=パブリック)が成り立つのではないか、と。
年金の業務でいうならば、市役所は年金機構の代理店(=エージェンシー)みたいなものでしょうか。一方で、相談者の立場を尊重するコンサルタントでもある、という感じです。そうすることで適正な受給権が確保される、といった事例も少なくありません。市役所のカウンターも、相談者の生活を守りつつ社会を成長させる場所であればいいな、と思います。
― 単に年金の知識を持つだけでなく幅広い分野に関心を持っていると、より年金業務への向き合い方が豊かになりそうですね。
橋本 いま私たちの課では、「ソリューション・フォーカス」という考え方も取り入れて仕事をしています。ソリューション・フォーカスというのは、「これが問題だ」「あれが問題だ」と問題に焦点を当てて考える思考(プロブレム・フォーカス)とは違い、「どうしたら解決できるか」という解決の方法に焦点を当てて考える手法。そのほうが、よい未来を探しやすいといわれています。うちの課でも、何か問題があると「問題に焦点を当てるのではなく、解決方法に焦点を当てていこう」と話しています。