昨年の9月号および12月号でお伝えしているとおり、年金の受給資格期間が25年から10年に短縮されます。
該当する方に対する【年金請求書】は、
第27回社会保障審議会年金事業管理部会(平成28年12月21日に開催)で、【年金請求書】の発送スケジュールが正式に公表されましたので、今月はそれからご報告します。
(本稿では、受給資格期間が25年に満たない、10年に短縮された人に送付される年金請求書を年金請求書と表記します。)
■平成28年9月号 受給資格期間の短縮の概要
/nenkin-kouhou/kouhouPDF/nenkin-vol42_lecture.pdf
■平成28年12月号 受給資格期間の短縮の事例
/nenkin-kouhou/vol45/pro-lecture/pro-lecture-01.html
(1)社会保障審議会年金事業管理部会で公表された 年金請求書の送付スケジュール(予定)
平成28年12月21日に開催された第27回社会保障審議会年金事業管理部会で公表された送付スケジュール等の予定は、次のとおりです。(【図表1】および【図表2】参照)
受給資格期間が短縮されて受給できるようになった方への年金請求書は、国民年金法や厚生年金保険法の新法の対象者だけでなく、旧法の対象者、すなわち「通算老齢年金」の該当者にも送付されてきます(後述)。
旧法の知識がないとわかりにくいのですが、「老齢年金」ではなく、「通算老齢年金」です。年金請求書にも通算老齢年金請求書と記されています。
旧法では、通算老齢年金の請求は、年金制度の仕組みからして、それぞれの制度ごとに、つまり旧国民年金法、旧厚生年金保険法、旧船員保険法それぞれに、の通算老齢年金請求書があります。
一方、新法の国民年金法、新法の厚生年金保険法では、別々ではなく、1通で、年金請求書(国民年金・厚生年金保険老齢給付)と記されています。
旧法の対象者は、大正15年4月1日以前生まれの方ですので、改正法の施行日(平成29年8月1日)の時点では、「若い方」でも91歳になっており、かなりのご高齢です。
なお、受給資格期間短縮の改正法の施行日である平成29年8月1日の、「施行前に、対象者全員に請求書の送付を完了する予定」と、審議会に提出された資料には記されています(太字も原文のまま)。
【図表1】
【ポイント】
- 請求書の送付は、原則、年齢の高い方から順次送付することを予定。
- 共済組合等の加入期間を有する方等については、情報照会プロセスを 踏む必要があることなどから、まとめて最後に送付する予定。
- 送付対象者は、
ア 国民年金保険料納付済期間、
イ 国民年金保険料免除期間、
ウ 被用者年金加入期間を合わせて、10年~25年未満の方。
ア~ウを合わせて、10年に満たない方に送付するお知らせについては、 別途、検討中。
【図表2】
【スケジュール】
※2 男性は昭和30年8月1日までに生まれた方が送付対象者となる。
【出典】:平成28年12月21日に開催された社会保障審議会年金事業管理部会(第27回)で提出された、〈資料2-3〉「受給資格期間短縮の施行に向けた対応について」より。( )内の平成29年8月1日現在の年齢については、筆者が加筆した。また、文字の色についても筆者が注意を喚起するため色づけした。
なお、審議会では特段の説明がなかったということですが、関係者の話を総合すると、「5回に分けて送付」というのは、「第1クール」から「第5クール」に分けて送付という意味であり、それぞれの「クール」で2回ずつ送付するので、トータルでは10回の送付になる予定だということです(つまり、年金事務所の窓口の混乱を避けるために、2週間に1回ずつ送付する予定という)。
(2) 年金請求書の事前の受付・審査は3月1日より(予定)
現在、パブリックコメントに付されている「公的年金制度の財政基盤及び最低保障機能の強化等のための国民年金法等の一部を改正する法律の一部の施行に伴う経過措置に関する政令案」が原案どおりに施行されたとすると(パブコメの締切日は2017年01月24日)、年金請求書が送付されてくる、受給資格期間の短縮により老齢基礎年金・老齢厚生年金等の受給資格要件を満たすとみなされる人は、施行日の8月1日前においても、施行日において受給資格要件を満たすことを条件として、老齢基礎年金・老齢厚生年金等についての裁定の請求の手続をとることができる、ということです。
なお、年金請求書が送付されてくる人は、10年の受給資格要件があることが確認されているとのことですが、万が一(レアなケースなのでしょうが)、年金請求書が送付されてきた人の中で、年金事務所・街角の年金相談センター等で、事前の審査の結果、受給資格要件を満たさないと判定されれば、事前の受付手続はなされないことになると筆者は認識しています。
(3)共済組合・私学事業団の加入期間がある人で、1号厚年や国民年金の被保険者期間がある人の、 年金請求書は、日本年金機構から送付される
共済組合(2号厚年期間または3号厚年期間)・私学事業団(4号厚年期間)の加入期間があり、あわせて、民間の事業所で厚生年金保険に加入していた期間(1号厚年期間)があったり、あるいは、国民年金の被保険者期間(保険料納付済期間・保険料免除期間)がある人で、合算して、受給資格要件の10年以上の加入期間を満たすと日本年金機構で確認できた人には、日本年金機構から年金請求書が送付されてくるということです。
送付時期は、【図表2】にあるとおり、生年月日に関係なく、「第5クール」、すなわち、平成29年6月下旬から平成29年7月上旬が予定されているということになります。
なお、共済組合(2号厚年期間または3号厚年期間)・私学事業団(4号厚年期間)の加入期間と民間の事業所(1号厚年期間)の加入期間とを合算して、1年以上の加入期間がある人の場合は、65歳前からの特別支給の老齢厚生年金も支給されます。
以上を整理すると、【図表3】のようになります。
【図表3】
【年金請求書が送付されてくる実施機関】
- 共済組合+国民年金(保険料納付済期間・保険料免除期間)≧10年
⇒ 日本年金機構から送付 - 共済組合+1号厚年期間≧10年
⇒ 日本年金機構から送付 - 私学事業団+国民年金(保険料納付済期間・保険料免除期間)+1号厚年期間≧10年
⇒ 日本年金機構から送付
(4)共済組合の加入期間だけの人は、共済組合から送付される
なお、日本年金機構によれば、共済組合の加入期間だけの人は、共済組合から事前の年金請求書が送付されるとのことです。
被用者年金一元化のときもそうでしたが、受給資格期間の短縮に関しても、共済組合からの情報発信がほとんどありません。
それぞれの共済組合で、受給資格期間短縮による対象者がどのくらいいるのか、事前の年金請求書はいつごろから送付されるのか、といった基本的な情報が公表されていません。
そういった意味では、共済組合よりも日本年金機構の広報体制のほうが、はるかに国民の視点に立って情報を公開している、と筆者は認識しています。
(5)旧国民年金法の国民年金
通算老齢年金請求書、
旧厚生年金保険法の厚生年金保険
通算老齢年金請求書、
旧船員保険法の船員保険
通算老齢年金請求書は、別々に送付されてくる
大正15年4月1日以前生まれの人(施行日の時点で91歳以上の高齢者)で、旧国民年金法、旧厚生年金保険法、旧船員保険法ごとに、1年以上の加入期間(旧国民年金法の場合は、保険料納付期間と保険料免除期間の合計した期間)があり、かつ、受給資格期間の短縮の要件を満たしていると日本年金機構が確認した方に対しては、旧法の通算老齢年金の年金請求書が、それぞれ送付されてくるというということです(受給権が実際に発生するかどうかは、裁定請求の段階で、あらためて確認・審査するものと筆者は認識しています)。
つまり、上述のような事例では、国民年金 通算老齢年金請求書[様式192号]、
厚生年金保険 通算老齢年金請求書[様式194号]、
船員保険 通算老齢年金請求書の3通が、送付されてくるということになります。
別な事例で、イメージ図で示すと、【図表4】のようになります。
【図表4】
なお、受給資格期間の短縮と旧法の年金について、ご興味のある方には、次のセミナーをお勧めいたします。1月26日(木)に都内で開催されます『受給資格期間の10年短縮』のセミナーです。旧法の年金についても、法律面と事例面から、掘り下げた講話があると伺っておりますので、ご参加されることをお勧めいたします。
あわせて、旧令共済組合の組合員期間についてよくわからないとか、「特例老齢年金」と「通算老齢年金」の違いがハッキリしないという方にもお勧めです。
詳細については、以下のHPをご参照ください。
(6) 年金請求書 が送付されてこない人とは?
25年から10年への受給資格期間の短縮では、妻自身は国民年金を3年しか納めていないが、夫の厚生年金保険の加入期間や共済組合の加入期間など、配偶者の加入期間を活用して、つまり合算対象期間(カラ期間)を合計して10年以上の受給資格期間を満たす方にも、年金は支給されます。
しかしながら、日本年金機構では「昭和61年3月以前の期間については、AさんとBさんが、いつ結婚して、Aさん(夫)はそのとき市役所に勤めていたとか」そこまでデータを把握していません。したがって、そのように夫の被用者年金の加入期間を妻のBさんがカラ期間として使って、10年の受給資格要件を満たすという場合には、Bさんに年金請求書は送付されてきません。
しかし、請求の手続きをとることができないということではありませんので、とくに怒る必要はありません。先に述べたパブリックコメントが予定どおりに進行すれば、平成29年3月1日以降、年金事務所や街角の年金相談センターで手続きができる予定になっています。
ご高齢で、年金事務所などに行くことが困難という高齢者やそのご家族の方は、社会保険労務士の方に委任状を書いて、調査から手続きまで、お願いするのもひとつの方法でしょう。その社会保険労務士の先生が、受給資格要件を調査されて、受給資格要件を満たしていると確認されれば、年金見込額を年金事務所などで打ち出してきてくれるものと思います。あわせて、用意すべき書類なども丁寧に教えてくれるはずです。
(7)合算対象期間(カラ期間)について
25年から10年への受給資格期間の短縮では、従来以上に合算対象期間(カラ期間)の判定に配慮していかなければなりません。
10年の受給資格期間の短縮による老齢厚生年金の受給権者には、遺族厚生年金は支給されません。したがって、合算対象期間(カラ期間)を確認することで、25年の要件を満たした老齢厚生年金が受給できるのであれば、それにこしたことはありません。
【図表5】は合算対象期間(カラ期間)の判定の早見表です。
【図表5】の②③の「老齢年金・退職年金」は、文字通り「老齢年金・退職年金」であり、「通算老齢年金・通算退職年金」は該当しません。新法では、「老齢厚生年金・退職共済年金」と読み替えます。
あくまでも早見表ですので、実務での確認は詳細にチェックしてください。
【図表5】 合算対象期間(カラ期間)の判定の早見表
※1 | ・国籍取得または永住許可を65歳到達の前日までに受けている。 |
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※2 | ・昭和61年4月1日から65歳に達する日の前日までに保険料納付済期間または保険料免除期間があり、かつ、昭和61年3月31日までに脱退手当金を受けた者。 20歳未満の期間も含む。 |
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※3 | ・昭和54年12月31日までに退職一時金(原資凍結を除く)を受けた者。 20歳未満の期間も含む。 |
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※4 | ・国会議員本人は、昭和55年3月31日までは適用除外。昭和55年4月1日以後は任意加入。 |
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・国会議員の配偶者は、昭和61年3月31日までは任意加入。 |
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※5 | ・地方議員の場合、本人も配偶者も、昭和37年11月30日までは強制適用。 |
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・昭和37年12月1日以後は地方議員本人・配偶者とも任意加入。 |
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※6 | ・平成26年4月1日以後、合算対象期間に算入。 |
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【出典】『国民年金ハンドブック−平成28年度版−』(社会保険研究所)、『公的年金給付の総解説 −2016年−』(健康と年金出版社)、『事例解説 合算対象期間−平成18年度版−』(年友企画)、などを参考に一部表記を改める。 |
(8)合算対象期間(カラ期間)が関係する年金相談について
さて、読者の方から、相談事例をご紹介いただきました。
次のような加入歴の方の相談事例(【図表6】)です。
【図表6】
【相談事例】
- 昭和26年5月生まれの在日外国人。施行日の時点で66歳。
(生まれてから、ずっと日本で生活している特別永住者) - これまでの年金加入期間は、厚生年金保険(昭和55年から59年の4年のみ)。
国民年金の加入の手続きはしたことがないという。 - 法律が変わったそうだが、自分はもらえるのか、という相談です。
【図表5】の⑧に該当する人という前提で考えてください。
昭和61年4月1日以後に、国民年金の保険料納付済期間(保険料免除期間を含む)が全くなくても、昭和57年1月前の国民年金の適用除外期間(この相談者の場合は、昭和46年5月から昭和55年3月までの期間)は、合算対象期間として扱われるのでしょうか?
先月号の本欄で示した【事例B】(昭和61年3月31日までに脱退手当金を受けた者)の場合は、合算対象期間として使えるためには、昭和61年4月1日から65歳に達する日の前日までの間に、保険料納付済期間または保険料免除期間を有することとなったときに限り、という要件がありました。
厚生年金保険に加入していた4年間の期間と国民年金の適用除外期間の約9年間の期間を、単純に合計して13年になるから、10年以上の受給資格要件を満たしているので、厚生年金保険に加入していた4年分の年金が受給できると解答しても大丈夫でしょうか?
ちょっと心配になりませんか?
なお、筆者の解答は受給できるです。
参加を希望する方はこちらから申し込んでください。
▶
http://www.urawa.ac.jp/application/nenkin/index.php