年金講座

筆者プロフィール 長沼 明(ながぬま あきら)

浦和大学総合福祉学部客員教授。志木市議・埼玉県議を務めたのち、2005年からは志木市長を2期8年間務める。日本年金機構設立委員会委員、社会保障審議会日本年金機構評価部会委員を歴任する。社会保険労務士の資格も有する。2007年4月から1年間、明治大学経営学部特別招聘教授に就任。2014年4月より、現職。主な著書に『年金一元化で厚生年金と共済年金はどうなる?』(2015年、年友企画)、『年金相談員のための被用者年金一元化と共済年金の知識』(2015年、日本法令)

 今年、平成30年(2018年)9月14日に60歳になる女性。民間事業所に勤務していたことがあります。そんな人でも、特別支給の老齢厚生年金(1号厚年期間)の受給権が発生するのは、61歳、すなわち平成31年(2019年)9月14日になります(【図表1】参照)。
 一方、同じ生年月日、すなわち昭和33年(1958年)9月15日生まれでも、60歳から受給権の発生する地方公務員がいます。どんな人なのでしょうか?

【図表1】

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平成30年度中に60歳になる地方公務員で、
年金の受給権が発生する人とは、どんな人か?
〜特定消防職員・特定警察職員の受給開始年齢〜

(1)特定消防職員・特定警察職員の年金の受給開始年齢

消防職員や警察官など特定の地方公務員の
 支給開始年齢はどうなっているのか

 消防職員や警察官など、一定の要件を満たす、特定の階級以下の地方公務員の場合、同じ生年月日であれば、一般の地方公務員よりも支給開始年齢は早くなっています(【図表2】参照)。
 たとえば、昭和33年9月15日生まれの一般の公務員の場合、特別支給の老齢厚生年金、すなわち報酬比例部分の支給開始年齢は、63歳ですが(1号厚年の男性の支給開始年齢と同じ、【図表1】参照)、一定の要件を満たす、特定の階級以下の消防職員・警察職員は、報酬比例部分の支給開始年齢が60歳となっています(【図表2】参照、3号厚年期間の加入期間相当分)。

【図表2】特定の地方公務員の老齢厚生年金・退職共済年金の支給開始年齢

【図表2】特定の地方公務員の老齢厚生年金・退職共済年金の支給開始年齢

※報酬比例部分の年金の名称は、被用者年金一元化後(平成27年10月1日以後)に受給権が発生した場合、2階部分は老齢厚生年金と、旧3階部分は経過的職域加算額(退職共済年金)となります。 また、一元化前は、地方公務員共済組合の場合、報酬比例部分を給料比例部分と呼称しており、2階部分は厚生年金相当部分、3階部分は職域年金相当部分と呼称していました。 あわせて、一元化前に受給権の発生した年金については、2階部分・3階部分を含めて、退職共済年金と呼称していました。

 したがって、昭和33年9月15日生まれの公務員で、一定の要件を満たす、特定の階級以下の消防職員・警察職員の場合、平成30年9月14日が60歳に到達する日ですので、平成30年9月14日に年金の受給権が発生し、平成30年10月分から、年金が支給されることになります。
 ただし、昭和33年9月15日生まれの公務員の場合、定年退職の日は、平成31年(2019年)3月31日ですので、在職中は、2階部分の特別支給の老齢厚生年金は低在老により(支給停止基準28万円)、旧3階部分の経過的職域加算額(退職共済年金)については、地方公務員共済組合の組合員(第3号厚生年金被保険者)ということで、全額支給停止になるものと思われます。

(2)特定消防職員・特定警察職員とは?

特定消防職員とは?

 特定消防職員とは、次のように規定されています。

特定消防職員とは、
消防吏員の階級が、消防司令以下の消防職員であった人で、
退職時または60歳時点まで、引き続き20年以上在職していた
地方公務員共済組合の組合員をいう。

消防吏員の階級とは?

 消防吏員の階級については、【図表3】の左側に示したとおりです。

【図表3】消防吏員の階級 〜特定消防職員に該当す要件とは?〜

【図表3】消防吏員の階級 〜特定消防職員に該当す要件とは?〜

 【消防吏員の階級】は、消防組織法(昭和22年法律第226号)第16条第2項、「消防吏員の階級の基準」(平成25年4月消防庁告示第5号)第1条および第4条に基づき、市町村が定めると規定されている。

 あわせて、年金相談時において、特定消防職員に該当するかどうかを確認する上で、必要なポイントを3つ掲げておきましたので、ご参照ください。

①生年月日
②退職時の階級または退職間近の公務員の場合は現在の階級
③消防職員としての勤務年数(引き続き20年以上勤務しているかどうか)

 【図表2】で示したように、昭和42年4月2日以後生まれの消防職員の場合、消防吏員としての階級の如何に関わらず、すべて65歳にならないと年金の受給権は発生しません。
 また、生年月日によって、受給開始年齢が異なりますので、言うまでもないことですが、①の生年月日は確認しておく必要があります。
 ②の消防吏員としての階級の確認も必須です。
 「消防司令長」以上の階級に昇任すると、共済組合の年金上の区分は、一般の公務員扱いになり、1号厚年の男性と同じ支給開始年齢になります。
 言わずもがなのことですが、旧3階部分の経過的職域加算額(退職共済年金)の支給開始年齢も、2階部分の特別支給の老齢厚生年金と同じになります。旧3階部分だけ早く受給できる特例というのはありません。
 ③の消防職員としての勤務年数、つまり引き続き20年以上勤務しているかどうか、というのも欠かすことのできない大切な要件です。
 いくら「消防士長」で退職していたとしても、勤務年数が10年では、特定消防職員には該当しません。ということは、共済組合の年金上の区分では、一般の公務員と同じ取り扱いであり、その10年間の3号厚年期間の年金は、63歳からの支給開始となります(昭和33年9月15日生まれの場合、【図表3】の右側の欄を参照)。
 なお、消防本部・消防署に勤務しているすべての公務員が、特定の地方公務員に該当するわけではありません。いわゆる、一般の事務職も勤務しており、事務職は消防吏員ではありませんので、階級を有しておらず、20年以上勤務していたとしても、特定の地方公務員には該当しません。
 管理職かどうかというのも、特定消防職員には関係ありません。20年以上、消防本部に勤務していて、管理職ではない、事務職という地方公務員は、一般の公務員ですので、1号厚年の男性と同じ支給開始年齢になります(【図表1】参照)。

特定警察職員とは?

 特定警察職員の要件も、基本的に特定消防職員と同じです。警察官の階級が、警部以下ということになります(警察官の階級については、警察法(昭和29年法律第162号)第62条に規定されています)
 少し、表現を変えましたが、中身は、特定消防職員と同じです。各共済組合で、法律上の規定をいろいろと工夫しながら、表現していると受け止めていただければよろしいのではでしょうか?

特定警察職員とは、
 老齢厚生年金・退職共済年金を受ける権利を取得したとき(たとえば、60歳に達した日)に、警部以下の警察官として、引き続き20年以上勤務していた人をいう。
 なお、老齢厚生年金・退職共済年金を受ける権利を取得する前に、退職している場合(たとえば、50歳で退職)は、その退職時に、警部以下の警察官として、引き続き20年以上勤務していた人、ということになる。

 特定警察職員の注意点は、特定消防職員と同じです。
 警察本部・警察署に勤務しているすべての公務員が、特定の地方公務員に該当するわけではありません。いわゆる一般の事務職も勤務しており、事務職は警察官の階級を有しておらず、特定の地方公務員には該当しません。
 また、一部に、「名誉警視」の称号を付与している警察本部がありますが、共済組合の年金上の区分に位置づけられる階級ではありません。「名誉警視」は、「警部」として、すなわち共済組合の年金上の区分としては特定警察職員として取り扱います。

(3)特定消防職員・特定警察職員の年金請求は、

ワンストップサービスの対象ではない!

 特定消防職員・特定警察職員に該当する人の、特別支給の老齢厚生年金の請求書は、ワンストップサービスの対象とはなりません。それぞれ加入していた実施機関(市町村職員共済組合、東京都職員共済組合、警察共済組合)から送付されてきますので、各共済組合に提出します。
 なお、そのあとの、死亡したときの遺族厚生年金の請求などは、ワンストップサービスの対象となります。
 あらためて、特定消防職員と特定警察職員に関係する消防吏員と警察官の階級をまとめておきましょう。

【図表4】消防吏員と警察官の階級

【図表4】消防吏員と警察官の階級

 余談ながら、警視総監というのは、警視庁のトップであり、日本に現職は1人しかいません。消防総監も東京消防庁のトップであり、日本に現職は1人しかいません。たぶん、このクラスの人が年金相談に来訪することはないと思います。
 年金相談時に気をつけたいのは、警察官は「警部」以下、消防吏員は「消防司令」以下の階級だった地方公務員が見えられたときは、特定警察職員・特定消防職員に該当する可能性があるということです。
 なお、「消防司令」は「消防司令」であり、「消防指令」ではありませんので、漢字の変換にはご注意ください。

女性の特定消防職員の場合の、支給開始年齢は?
 1号厚年よりも先に支給されるのか?

 私が市長在任中、広域行政で行っている消防の一部事務組合で、女性の消防職員を採用していました。これまで述べてきた消防吏員です。
 当然のことながら、特定消防職員に該当する場合は、【図表2】に基づく年齢で、年金が支給開始になります。
 61歳で支給開始になるのは、一般の公務員が「昭和28年4月2日〜昭和30年4月1日」生まれなのに対し、特定消防職員は「昭和34年4月2日〜昭和36年4月1日」となり、一般の公務員の6年遅れとなります。
 また、1号厚年の女性は、1号厚年の男性の5年遅れで、61歳で支給開始になるのは、「昭和33年4月2日〜昭和35年4月1日」となります(【図表1】参照)。
 トンチクイズのような事例で恐縮ですが、もし、昭和33年9月15日生まれの女性(平成30年9月14日に60歳)で、特定消防職員に該当(消防吏員として、25年勤務し、消防司令で退職)し、その後、民間の事業所に5年勤務経験のある人がいたとすると、3号厚年に基づく特別支給の老齢厚生年金と経過的職域加算額(退職共済年金)は60歳で受給権が発生し、1号厚年に基づく特別支給の老齢厚生年金は61歳で受給権が発生するということになります。
 女性の場合、いつも1号厚年が先に支給され、3号厚年はそのあと、と思い込んでいると、思わぬところで…と思い、記しました。
 何年かあとは、そんな事例が出てくるような気がします。
 消防職員が女性というのは、私は立場上、違和感なく経験しています。

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