勤めていたころには、社会保険の手続きはすべて会社が行ってくれた。保険料や税金も給料天引きだったから、妻や子どものことも含めて自分には何の面倒もなかった。いつの間にか手元には健康保険の被保険者証や年金手帳があった。退職したら、すべて自分で手続きしなければならないのか…こんなふうに気が重くなっている人のために、退職時の社会保険の手続きについて整理しました。

1健康保険・年金・雇用保険の手続き

健康保険は選択肢が3つ

 勤めていた時の健康保険(協会けんぽ、組合管掌健康保険、共済組合等)が使えるのは退職日までです。翌日には被保険者の資格がなくなります。そのままにしておけば病気やケガのときに病院にかかることができませんから、新たに別の健康保険に加入する手続きをする必要があります。そのとき、3つの選択肢から自分に合ったものを選ぶことができます。介護保険料は選択した健康保険と一緒に納付することになります。

 なお、退職後再就職する人は、新しい勤務先の健康保険に加入します。また、75歳以上で退職した人は後期高齢者医療制度が継続されます。

退職する月の保険料は?

健康保険など社会保険料は日割でなく月単位で計算されます。基本的に退職月の保険料はかかりませんが、月末日=退職日の場合は、1カ月分の保険料を支払います。

① 任意継続被保険者になる

 手続きをすることにより、在職中に加入していた健康保険を2年間に限り継続することができます。ただし、退職日の前日まで継続して2カ月間以上その健康保険に加入していたことが条件となります。手続きは退職日より20日以内に、会社に申し出て手続きを行います。

【提出書類】任意継続被保険者資格取得申請書
(会社員などの場合)

【添付書類】扶養する家族がいる場合は被扶養者届と生計維持・同一世帯を証明する住民票など


※公務員などの場合はその共済組合等の規程によりますが、継続して1年間以上組合員であることを条件としていることが多いようです。

選択のポイント〜保険料について〜

 在職中は会社(事業主)が保険料の半分を負担してくれていましたが、退職後は全額自分で支払わなければなりません。任意継続被保険者になるか、国民健康保険に加入するか、できるだけ保険料が低いほうを選択したいものです。
 任意継続被保険者の保険料は次のうちどちらか低い方を基準に計算されます。
○退職前の標準報酬月額

○加入していた健康保険の標準報酬月額の平均

 上記の額に退職時の保険料率(介護保険を含む)を乗じた額が保険料となります。保険料は2年間変わりません。

② 国民健康保険に加入する

 新たに国民健康保険に加入します。手続きは住所地の市区町村で行いますが、扶養している家族がいれば家族の分の保険料も支払うことになります。保険料は前年の所得をもとに市区町村ごとに計算されます。

【提出書類】国民健康保険被保険者資格取得

【添付書類】健康保険被保険者資格喪失証明書など

③ 家族の被扶養者になる

 家族が働いている場合、その家族が加入している健康保険に、被扶養者として加入することができます。被扶養者本人が支払う保険料はありません。手続きは家族が勤務先に申し出ます。ただし、被扶養者となれるのは、60歳未満では年収130万円未満で被保険者(家族)の年収の1/2未満の人、60歳以上では年収180万円未満で被保険者(家族)の年収の1/2未満である人に限られます。

60歳未満の人は国民年金の手続きを

 国民年金の被保険者となれるのは原則60歳までですが、厚生年金保険に加入できるのは、70歳までです。従って60歳以上で正社員・正職員として勤めていた人は厚生年金保険に加入していたことでしょうが、退職後は年金制度への加入はなくなります。

 一方で、60歳未満で退職した人は国民年金保険の第1号被保険者となる手続きを行う必要があります。これは退職日の翌日から14日以内に、市区町村の窓口で手続きします。平成28年度の国民年金保険料は16,260円です。経済的に保険料を支払うことが困難な場合は保険料免除(1/4免除・1/2免除・3/4免除・全額免除から選択)の申請を行えば、年金額はその分減額となりますが、加入期間は加算されます。

【提出書類】国民年金被保険者取得届

【添付書類】年金手帳または基礎年金番号通知書など

 忘れてならないのは、これまで配偶者(妻・夫)が厚生年金保険の被扶養者となっていた場合です。この場合配偶者は第3号被保険者でしたが、配偶者も同時に第1号被保険者となる手続きを行わなければ、退職後、配偶者は年金に入っていないこととなり、将来年金額が減ってしまったり、最悪の場合は被保険者期間が足りず年金がもらえなくなる恐れもあります。

【提出書類】国民年金被保険者資格取得届

【添付書類】年金手帳又は基礎年金番号通知書など

加入期間が足りない! そんな人は

 60歳以上で退職して年金制度への加入がなくなると、国民年金(老齢基礎年金)をもらうための加入期間(受給資格期間)※1が足りないという人、あるいは受給資格期間を満たしてはいるけれど満額(40年保険料全額納付した場合の額)ではないという人は、65歳※2までの期間に限り、国民年金に任意加入することができます。手続き住所地の市区町村の窓口で行います。免除制度はありません。

【添付書類】年金手帳または基礎年金番号通知書、本人確認ができるものなど

※1 平成28年4月現在の受給資格期間は25年ですが、平成29年4月から10年に短縮される予定です。

※2 昭和40年4月1日以前生まれの人は70歳までの特例期間が設けられています。

 なお、健康保険で家族の被扶養者となることを選択した人は、同時に厚生年金保険でも被扶養者となりますので、国民年金の第3号被保険者となります。保険料は家族が給料から引かれる年金保険料に含まれます(第3号被保険者の追加保険料はありません)。

60〜64歳の人は雇用保険の基本手当(失業給付)の手続きを

(数値は平成28年4月現在の60〜64歳の人について)

 60〜64歳で退職した人は雇用保険の基本手当(失業給付)の申請を行うことができます。ただし、求職活動を行うことが前提となります。また、年金と同時にもらうことはできません。雇用保険を受けている間の年金は全額支給停止となりますので注意が必要です。両方の額を試算したうえで選択しましょう。

 手続きは住所地の公共職業安定所(ハローワーク)で行います。支給される額は在職中の給料や在職年数によります。

 基本日額=賃金日額※1 × 給付率※2 (上限は6,714円)

 ※1 賃金日額=退職前6カ月の給与合計額(賞与を除く)÷180。上限は14,920円。

【※2の給付率・給付日額】

賃金日額 給付率 給付日額
2,300円以上 4,600円未満 80% 1,840〜3,679円
4,600円以上 10,500円以下 80〜45% 3,680〜4,724円
10,500超 14,920円以下 45% 4,725〜6,714円
14,920円超 6,714円(上限)

【給付日数】

被保険者だった期間 1年未満 1年以上
5年未満
5年以上
10年未満
10年以上
20年未満
20年以上
定年・自己都合など
による退職
90日 120日 150日
倒産・解雇など
による失業
90日 150日 180日 210日 240日

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