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シリーズ3回目となり、今回が最終回です。
前回前々回と「繰上げ」・「繰下げ」についてお話しましたが、いかがでしょうか。
「内容はわかった。でも、いろいろな事が多すぎて、返って迷ってしまう。」という方も多いのではないでしょうか。

そのような方のために、今回は「繰下げ」に係る“落とし穴”2つご紹介した後、「繰上げ」・「繰下げ」の選択にあたってのポイントを解説します。

「繰下げ」の落とし穴①:「繰下げ」申請中に死亡した場合

仮に、「繰下げ」後に、その方が亡くなってしまった場合はどうなるのでしょうか。 年金受給者が死亡すると「遺族年金(※)」が支給されます。 その「遺族年金」は増額されるのかしら…。

答えは、遺族年金には「繰下げ」による増額率は反映されない。」です。
「えっ」と思われるかも知れませんが、そのために「繰下げ」しなかった方が良かったというケースもあります。

では、「繰下げ」しなかった場合とした場合について、事例を参照に試算してみましょう。

《事例》

A男さんは75歳で亡くなり、妻B子さん(70歳)が「遺族厚生年金」を受取った。

A男さん
B子さん

前提

・A男さん:老齢基礎年金80万円・老齢厚生年金120万円・加給年金額40万円

・B子さん:老齢基礎年金80万円・老齢厚生年金20万円

・B子さんの「遺族厚生年金」:90万円(A男さん老齢厚生年金(120万円)の4分の3

・B子さんは90歳で天寿を全うしたと仮定します。

※上記:年金額は年額です。
また、「加給年金額」は老齢厚生年金を受け取る際、生計維持された配偶者や子に加算される年金です。

●A男さんが65歳から年金を受け取った(「繰下げ」しなかった)場合

年齢 年金額
(総額)
計算方法
A男さん 65歳~70歳 1,200万円 240万円(老齢基礎年金80万円+老齢厚生年金120万円+加給年金額40万円)×5年
70歳~75歳 1,000万円 200万円(老齢基礎年金80万円+老齢厚生年金120万円)×5年
B子さん 65歳~70歳 500万円 100万円(老齢基礎年金80万円+老齢厚生年金20万円)×5年
70歳~90歳 3,400万円 170万円(老齢基礎年金80万円+遺族厚生年金90万円)×20年
年金の総額
(A男さん+B子さん)
6,100万円 -

《イメージ図》

イメージ図:「繰下げ」しなかったケース

●A男さんが「繰下げ」し70歳から年金を受け取った(「繰下げ」した)場合

年齢 年金額
(総額)
計算方法
A男さん 65歳~70歳 0万円 「繰下げ」により待機中
70歳~75歳 1,420万円 284万円((老齢基礎年金80万円+老齢厚生年金120万円)×42%増)×5年
B子さん 65歳~70歳 500万円 100万円(老齢基礎年金80万円+老齢厚生年金20万円)×5年
70歳~90歳 3,400万円 170万円(老齢基礎年金80万円+遺族厚生年金90万円)×20年
年金の総額
(A男さん+B子さん)
5,320万円 -

《イメージ図》

イメージ図:「繰下げ」したケース

上記では、「繰下げ」をしない方が780万円も多くもらえることになります。
少し極端な事例かも知れませんが、前述のとおり、「遺族年金」には「繰下げ」の増額率は反映されないという事は覚えておいた方が良いでしょう。

※「遺族年金」の詳しい内容は下記をご参照ください。
『遺族年金』を学ぶ①~誰が受け取れるのか?~
https://www.kurassist.jp/kurassist-eye/nenkin/learn-vol15-20230615.html

「繰下げ」の落とし穴②:「繰下げ」と「在職老齢年金」

在職老齢年金(※)」とは、会社から報酬や給与を受け取っている方で一定の収入を超える場合は、年金の一部または全部が支給停止される仕組みのことです。

少し「在職老齢年金」についてお話しますと、総報酬月額相当額(毎月の給与と1年間の賞与の12分の1の合計金額)と厚生年金月額の合計が支給停止基準額(2026(令和8)年度は65万円)を超えると、年金額が調整されて減らされるというものになります。

では、「繰下げ」を申請すると、「在職老齢年金」により減額された年金は、増額の対象にならないことはご存知でしょうか。
こちらも、「事例」を見ながらイメージしていきましょう。

《事例》

C男さん(65歳)は、就労中で月60万円の給与があります。そのため、70歳まで年金を受け取らない「繰下げ」を申請しました。

C男さん

前提

C男さん:老齢基礎年金80万円・老齢厚生年金120万円

C男さんの在職老齢年金7.5万円
(「在職老齢年金」の計算方法)
①老齢厚生年金を月額に修正⇒月額10万円
②支給停止分=2.5万円(10万円(老齢厚生年金月額)+60万円(お給料)-65万円(基準額)×0.5)
③10万円(①)-2.5万円(②)=7.5万円(在職老齢年金)

C男さんの「繰下げ」後の年金額(70歳時)

・老齢基礎年金:1,136,000円(80万円が42%増額)

・老齢厚生年金:1,278,000円(7.5万円×42%増額)×12ヶ月)

合計     2,414,000円(年額)

つまり、月額10万円の年金額が42%増額する訳ではないのです。
「在職老齢年金」の場合、「繰下げ」で増額されるのは、減額された「在職老齢年金」のみです。就労して、お給料を貰っているのだから、当たり前と言えばそれまでですが、「思ったより増えていない。」と感じてしまうのは無理からぬ事です。

「在職老齢年金は「繰下げ」要注意」
覚えておきましょう。

《イメージ図》

イメージ図:「在職老齢年金」支給停止が発生するのケース

※「在職老齢年金」の詳しい内容は下記をご参照ください。
「在職老齢年金」をもっと学ぶ ①~2024(令和6)年度の改正点と事例~
https://www.kurassist.jp/kurassist-eye/nenkin/learn-vol28-20240716.html

年金を『ソン・トク』だけで決めてはいけない

これまで様々な事例をご案内し、「繰上げ」・「繰下げ」をした場合に受け取れる年金額を中心にお話してきました。
何となく『ソン・トク』は測れても、合理的な『ソン・トク』までは、自分が医療を受ける時期や死ぬ時期がわからない限り、予測することは不可能とも思います。
年金の総額をある程度の目安にすることまでは否定はしませんが、そこにこだわっても結論は出ないと思います。

だいたい、その『ソン・トク』が確定するのは、ご自身が亡くなる時です。
その時に『トク』をしたからと言っても、既に利益を享受できる立場にはいないことになります。『トク』は墓場まで持って行けないのです。

「繰上げ」・「繰下げ」の選択ポイントは『健康』『家族』『生活』

では、「繰上げ」・「繰下げ」を選択する際のポイントは?
それは、皆さんが「年金をもらえる年齢になった時の状況」と考えます。
その状況での判断ポイントとしては、①『健康』②『家族』③『生活』です。

①『健康』
・健康上のリスクがあり、病気等により今現在、お金を必要としている場合は、「繰上げ」を検討。ただし、「繰上げ」後は障害年金が受給できない等のリスクがあるため、慎重に行うことが必要。 ・健康上の心配がない場合では、「長生きリスク」を想定し、「繰下げ」の年金額増額を検討。
②『家族』
・まずは、老後のライフスタイルを家族で共有し、共通の金銭価値観を持ったうえで、自身を含めた家族の年金額を把握。(「ねんきん定期便」や「ねんきんネット」の活用) ・「繰下げ」を選択する場合は、「加給年金額」の受給要件を確認。 ・事前に「遺族年金」の年金額を把握。そのうえで、「繰上げ」・「繰下げ」の効果を検証。(年金事務所等の相談窓口を活用)
③『生活』
・「いつまで働くか」等、ご自身の労働観を明確化する。(自身の労働観を見直し)
・「早めにリタイアしたい」、また、「お金に不安がある」等を考えた場合は、家計の固定費等を見直し、無理なく生活できる設計をしたうえで「繰上げ」を検討。
・年金額を投資資金に回すなど、お金の運用に自信がある方は「繰上げ」を検討。
・働くことで年金が無くても充分と判断できる場合は「繰下げ」を検討。
・ただし、働きながら年金を受け取る場合は「在職老齢年金」で年金額が減額されることを考慮する。

晴れて年金受給の日を迎えるために

老齢年金の「繰上げ」・「繰下げ」は、それをしなかった場合に比べて、受取総額が65歳から受け取るときと比べて少なくなることも多くあり、どちらに転ぶかは、不確定要素が多すぎて断言はできません。
迷われるのは、当然のことです。

少しでも多くの年金をもらいたいと思うのは無理もない話ですが、「繰上げ」・「繰下げ」の判断を悔いなく行うためには、実は知っているようで知らない、『自己分析』が一番大事な事だと思います。
その『自己分析』により、ご自身のライフスタイルや仕事観、金銭の価値観等を見つめ直し、そして、「今、そのお金が必要か」という観点で検討してみてはいかがでしょうか。

日本で生活する以上、年金の加入は義務です。
その権利として、誰でも年金を受け取る年齢は訪れます。
「繰上げ」・「繰下げ」、どちらにせよ、判断し、その後、実際に年金を受取れば、それは「晴れて年金の受給を迎えた日」です。
本コラムが皆様のお役に立ち、年金を受取ってからは、ご自身の判断は正しかったと心に決め、その後の年金生活を大いに謳歌して頂きたいと心から願っています。

くらしすと「年金」ワンコイン質問箱

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