年金講座

筆者プロフィール 長沼 明(ながぬま あきら)

浦和大学総合福祉学部客員教授。志木市議・埼玉県議を務めたのち、2005年からは志木市長を2期8年間務める。日本年金機構設立委員会委員、社会保障審議会日本年金機構評価部会委員を歴任する。社会保険労務士の資格も有する。2007年4月から1年間、明治大学経営学部特別招聘教授に就任。2014年4月より、現職。主な著書に『年金一元化で厚生年金と共済年金はどうなる?』(2015年、年友企画)、『年金相談員のための被用者年金一元化と共済年金の知識』(2015年、日本法令)

 平成29年8月24日と25日の2日間、愛媛県松山市で、全国の主な自治体の国民年金の担当者が集まり、全国都市国民年金協議会が開催されました。
 筆者は現職の市長のとき、シンポジウムのパネリストとして招かれ、参加させていただきました。今年は、8月24日の1日のみの出席でしたが、厚生労働省や日本年金機構に対する事務改善要望など、活発な意見が交わされました。
 そのなかで、【マイナンバーと年金生活者支援給付金】の情報については、自治体の関係者に限らず、多くの年金実務に携わる人にとって、有意義な意見が交わされておりましたので、その一部をご紹介させていただきます。
 なお、2日間の全国都市国民年金協議会の詳細な情報は、『年金広報』(平成29年9月15日号)に掲載されておりますので、そちらをご覧ください。
 【マイナンバー】に関しては、社会保障審議会・年金事業管理部会においても厚生労働省から説明されています。審議会に提出された資料で、わかりやすいイメージ図などは本稿でも紹介します。
 なお、筆者は基本的に、「個人番号」(マイナンバー)と記しましたが、本稿中、「マイナンバー」と「個人番号」の表記が混在しています。出典が混在しているため、筆者のほうで統一はしていません。

マイナンバー制度の利用により、
平成30年3月からの年金請求はどう変わるのか?

(1)平成30年3月より、
「個人番号」(マイナンバー)による各種届書の提出!

 厚生労働省年金局は、平成29年8月23日付けで、事業企画課長・事業管理課長名による【事務連絡】『番号制度の導入に伴う市町村における年金関係事務の概要(案)について』を、地方厚生(支)局の年金調整(年金管理)課長宛てに発出し、「管内の各市町村に対して別添を配布」するように指示しました。
 8月24日に厚生労働省の担当者が、全国都市国民年金協議会において説明した『番号制度の導入に伴う市町村における年金関係事務の概要 ポイント』については、この【事務連絡】の内容が中心になっているとのことです。
 つまり、ここからの内容は、市町村に向けて発出された【事務連絡】ということをご理解ください。そして、「情報提供ネットワークシステムを活用した業務に関しては、現在関係機関と調整中であり、使用開始時期も含めて、今後変更の可能性がある。」(下線は原文のまま)とも記されていますので、あくまでも、平成29年8月23日時点における情報であり、今後、変更があり得るということを念頭に置いておいてください。

平成30年3月からは、「基礎年金番号」による各種届書の提出はできないのか?

 番号制度についてはすでに、平成27年10月より個人番号の付番が開始され、平成28年1月より番号制度が施行されています。
 一方、年金業務においては、平成29年1月より相談・照会業務における個人番号の利用が開始されました。年金事務所の受付で記入する「年金相談・手続受付票」に、「基礎年金番号」でも「個人番号」(マイナンバー)でも、どちらでも記入できるように、番号欄が12マスになりました。もっとも、ほとんどの人が現在も、「基礎年金番号」を記入して年金相談を受けていると筆者は聞いています。
 さて、市町村向けに発出された【事務連絡】によれば、平成30年3月より、年金制度における各種届出等については、原則として「個人番号」(マイナンバー)を記載していただくとのことです。
 ただし、海外在住者など個人番号を有したことがない人や個人番号の指定を受けた後に出国した人などについては、引き続き、「基礎年金番号」による届出等も行えるものとする、とのことです。

「個人番号」(マイナンバー)の記載を拒否された場合には…?

 「個人番号」(マイナンバー)を記載したくないという人には、どう対応したらいいのでしょうか?
 【事務連絡】には、次のような記載があります。
 「なお、個人番号の記載を求めてもなお拒否された場合等においては、個人番号の記載がないことのみをもって受理しないことは適切でないので留意すること。」とされていることから、従来どおり、「基礎年金番号」による届出を受けるということは可能と解されます。
 市町村の窓口では、年金業務に限らず、「なぜ、〇〇を記入しないといけないのか」「どうして、□□を添付しないといけないのか」というトラブルがあると聞きます。国民年金の事務は法定受託事務で、市町村が勝手な判断をして、事務をすすめることはできません。【事務連絡】にこのような内容が記載されていると、市町村としては、市民との対応がスムーズに進められると思います。
 市役所などでは、窓口でのちょっとした行き違いが、大きなトラブルに発展することもあり、【事務連絡】に記載された内容を踏まえることで、市民と行政が大きなトラブルを起こすことなく、穏やかなうちに届書を受理することができると筆者は認識しています。

ターンアラウンドや年金証書には、「個人番号」(マイナンバー)でなく、
「基礎年金番号」を記載!

 日本年金機構から年金の受給対象者に「予め必要事項等を印字したうえで送付する『ターンアラウンド方式』による申請書等については、個人情報漏えい防止の観点等から個人番号ではなく基礎年金番号を印字して送付することとし、申請者は印字された基礎年金番号により手続を行うこととする。」とのことです。
 また、日本年金機構から「被保険者等に対して送付する各種通知書(年金証書、国民年金保険料納付書等を含む。)については、郵便事故等で個人番号が漏えいするリスクがあること、個人番号は基礎年金番号と異なり他機関でも使用する番号であること等を考慮し、届出等手続に用いられた番号に関わらず、基礎年金番号により通知を行うこととする。」とされています。

日本年金機構における年金情報の管理は、 従来どおり基礎年金番号で行う!

 それでは「基礎年金番号」と「個人番号」(マイナンバー)は、日本年金機構においては、どのような使い分けがなされるということなのでしょうか?
 平成30年3月以後は、あらたに「基礎年金番号」を付番することはないのでしょうか? 
 実は、番号制度導入後に、新規で年金制度に加入する人についても、「基礎年金番号」は付番されます。たとえば、高校を卒業して、会社に勤務したり(厚生年金保険の被保険者となる)、大学生で20歳に達して国民年金の第1号被保険者になったりした場合など、「新規に年金制度に加入した者については、機構が基礎年金番号を付番し被保険者宛に年金手帳を送付する。」ということになっています。
 つまり、「番号制度導入後に新規で年金制度に加入する者についても、引き続き、基礎年金番号を付番したうえで、個人番号を紐付けて管理する。」ということになります。

(2)日本年金機構は、どのようにして「個人番号」(マイナンバー)を
取得するのか?

 日本年金機構では、どのようにして、年金受給者や国民年金・厚生年金保険の加入者から「個人番号」(マイナンバー)を取得するのでしょうか?
 ここからは、平成29年6月22日などに開催された複数回の社会保障審議会・年金事業管理部会における厚生労働省および日本年金機構の担当者からの説明とそのときの配付資料によります。

【図表1】日本年金機構はどのようにして個人番号を取得するか

①「国民・事業主が年金関係の届書・申請書等にマイナンバーを 記入し、提出していただく」ことで、日本年金機構が取得する

②マイナンバー法等の規定に基づき、J-LIS(「ジェイリス」(*) と読む) からマイナンバーを日本年金機構が取得する。

(*)J-LISとは、「地方公共団体情報システム機構」の略称。
【出典】平成29年6月22日に開催された第31回社会保障審議会・年金事業管理 部会に提出された【資料2】【日本年金機構におけるマイナンバーの利用等 について】の1頁の左側のイメージ図を筆者が要約

 ①はすんなりと理解できると思います。
 年金の受給者や国民年金の被保険者、そして事業主が届書に記載している厚生年金保険等の被保険者の「個人番号」(マイナンバー)を日本年金機構が取得するというものです。  
 ②については、年金事業管理部会での説明によれば、すでに、住所・氏名・生年月日・性別の4情報が一致する人の住民票コードについては、J-LISから提供を受けて、収録をしてきており、平成29年1月から、日本年金機構において、マイナンバーの利用が開始になり、「29年1月からマイナンバーの利用開始になったということで、それをもちまして今まで持っている住民票コードでJ-LISに照会して、それと1対1対応しているマイナンバーの情報をいただく、そういう手順をとったということであります。 」(平成29年3月29日開催の年金事業管理部会における日本年金機構の担当部長の答弁)とのことである。

【図表2】マイナンバー取得に関する
 日本年金機構とJ-LISのイメージ図

 【図表2】マイナンバー取得に関する日本年金機構とJ-LISのイメージ図
【出典】平成29年6月22日開催の第31回社会保障審議会・年金事業管理部会に提出された【資料2】【日本年金機構におけるマイナンバーの利用等について】 の5頁右下のイメージ図

(3)日本年金機構と税務署等との関係は、
マイナンバーではどうなっているのか?

 日本年金機構から、一定の要件を満たす年金受給者に対し、平成29年8月より、平成30年分の「扶養親族等申告書」が郵送されてきています。そして、「本年においては、平成29年分の扶養親族等申告書にかかる扶養親族等の個人番号(マイナンバー)を申出いただくため、『個人番号申出書(平成29年分扶養親族等について)』をお送りします。」との案内が、日本年金機構のホームページに掲載されています。
 さて、日本年金機構と税務署等との関係は、マイナンバーではどのようになっているのでしょうか?
 審議会での説明資料をご覧ください。
 【図表3】日本年金機構と税務署の関係を示すイメージ図です。

【図表3】日本年金機構と税務署の関係を示すイメージ図

【図表3】年金額改定通知書
【出典】平成29年6月22日開催の第31回社会保障審議会・年金事業管理部会に提出された【資料2】【日本年金機構におけるマイナンバーの利用等について】の7頁右下のイメージ図

 審議会における厚生労働省の担当者の説明によれば、日本年金機構は、年金受給者に年金を支給し、特別徴収義務者になっているため、税務署および自治体に、マイナンバーおよび年金額の情報を提供する義務があるとのことです。
 税務署へのマイナンバーの提出については、「日本年金機構は、所得税法上、年金受給者のマイナンバーを源泉徴収票に記載して税務署に提出する必要がある」と明記しています(【図表3】参照)。

(4)マイナンバーの利用により、
どんな添付書類が不要となるのか?
3点セット(戸籍謄本・住民票・所得証明書)は
すべて省略できるのか?

 審議会や前出の【事務連絡】を総合すると、日本年金機構が、情報提供ネットワークシステムを通じた外部機関との情報連携および情報連携を活用した各種手続における添付書類の省略については、実施時期は未定とのことです。ただ、情報連携が実施された後は、現時点では、次のような添付書類が省略されると考えられています。
 ただし、法令が改正され、情報連携がいわば本格的に実施されるようになったとしても、情報提供ネットワークシステムの情報連携の対象外のものについては、当然のことながら、添付書類は省略できないもの、ということなります(【図表4】参照)。

【図表4】情報連携システムの対象外のため、添付書類が省略できない主なもの

①夫婦や親子などの身分関係を明らかにするための戸籍謄本などについては、情報連携の対象外であるため、現行どおり添付書類を求める。(*)

障がい状態を確認するための診断書等については、情報連携の対象外であるため、現行どおり添付書類を求める。

死亡原因等を確認するための死亡診断書の写し等については、情報連携の対象外であるため、現行どおり添付書類を求める。

【出典】 平成29年8月23日付【事務連絡】『番号制度の導入に伴う市町村における年金関係事務の概要(案)について』
(*)筆者注:一部報道(平成29年8月8日付)によると、「戸籍事務にマイナンバー」との記事が伝えられているが、現時点では法案も提出されておらず、実務上の議論のテーブルにはのっていないと筆者は認識している。

 また、日本年金機構においては、「市町村との情報連携開始後は、記載された個人番号を用いてJ-LIS 及び情報提供ネットワークシステムを通じて住民票情報及び所得情報を取得することにより」、【図表5】に掲げる添付書類については、「原則として添付書類の添付を省略する取扱いとする。」とのことです。
 (平成29年8月23日付【事務連絡】)
 
 なお、日本年金機構では、平成29年4月以降、年金請求書に個人番号を記載した人について、「J-LISから住基本人確認情報を取得することにより」、住民票など本人情報確認のため添付書類の添付を省略する取扱いとしている、とのことです。
 (ただ、筆者からすると、単身者で、住民票コードを年金請求書に記載した場合は、住民票は不要だったので、これをもってマイナンバー利用の利点というのは、いかがなものかと感ずる)

 

【図表5】情報連携システムを利用し、原則として添付書類の添付を省略する取扱いの主なもの

①振替加算の要件確認のための添付書類のうち、世帯全員の住民票及び所得証明書

②(遺族年金請求など)請求者に係る所得状況の確認のための添付書類のうち、所得証明書

③未支給年金の請求における、生計同一要件確認のための添付書類のうち、世帯全員の住民票(除票を含む)

■所得情報は、すべて書類添付が不要となるのか?

 こうみてくると、実施時期は未定ですが、所得証明書は、個人番号を用いて情報提供ネットワークシステムを通じて所得情報を取得することで、原則として提出が不要となる予定と理解されます。
 しかしながら、20 歳前障がいの障がい基礎年金の受給権者については、現在、市町村窓口に『国民年金 受給権者所得状況届』を提出していますが、これは、別システムで所得の確認を行う予定であり、現行の手続きがそれまでは続くものと思われます。
 すなわち、20 歳前障がいの障がい基礎年金の受給権者の所得の確認については、平成31年10月に実施が予定されている年金生活者支援給付金の制度開始に伴い導入する所得確認の仕組みを活用する予定、ということからそのように判断されます。

(5)マイナンバーによる本人の確認とは?

 基本的な事項ですが、説明が最後になってしまいました。
 あらためて、「個人番号」(マイナンバー)の 付番対象者の範囲と本人確認措置について、述べておきたいと思います。
 これは、厚生労働省の職員による自治体関係者に対する説明が、たいへんわかりやすい内容となっていました。

個人番号の付番対象者の範囲とは?

 個人番号は、住民基本台帳に登録されている者(住民票を有するすべての者)に付番されます。
 年金制度においては、被保険者・受給権者等の中に、海外居住者など住民票を有していない者が含まれていることに留意する必要がある、ということです。

本人確認措置とは?

 いわゆる番号法では、本人から個人番号の提供を受ける場合には、なりすましを防止するために、本人確認の措置を取ることが規定されています。
 したがって、市町村窓口において、個人番号で年金の届出等を受け付けた場合は、番号法で規定する、【図表6】のとおりの、本人確認措置を行う必要があります。

【図表6】番号法における本人確認措置

①提供された個人番号の真正性の確認
⇒提出されたマイナンバーが正しい番号であることの確認
(個人番号カード、通知カード等により確認する)

②個人番号を提供する者の身元(本人)確認
⇒提出した人が正しい持ち主であることの確認
(個人番号カード、運転免許証・パスポートなど写真付身分証明書等による確認)

 引き続き、 「個人番号」(マイナンバー)と年金に関する新しい情報が得られましたら、正確性を期して、お伝えしていきます。

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