︱2017.10.13 10月号 (通巻700号) Vol.55

受給年齢の選択を考える

支給開始年齢の引き上げとの違い
多くの人から寄せられる疑問なのだが、なぜ支給開始年齢の引上げではなく、受給年齢の繰下げという議論になるのだろうか。
かつて実施された支給開始年齢の引上げは、いずれも財政問題を契機とするもので、保険料負担増の抑制を主眼としていた。しかし、保険料の上限が設定され、おおむね100年の収入総額が所与である現在の財政フレームの下では、支給開始年齢を引き上げれば、年金財政の好転によりマクロ経済スライドの停止時期が早まり、給付水準(所得代替率)の自動的な改善をもたらす。こうして、現行制度の下での支給開始年齢引上げは、財政対策ではなく給付水準改善策の一つとして論じられるべきものになったのである。
問題は、従来と同様の支給開始年齢引上げでは、年齢引上げの対象になる将来世代だけでなく、対象にならない現在の高齢世代にも給付水準の改善が及ぶため、その分だけ年齢引上げ世代の給付水準の改善を制約し、世代間格差をさらに拡大させるという弊害をともなうことである。この問題を回避するには、支給開始年齢の引上げによる給付改善の効果を、給付水準が調整される将来世代のみに帰着させる必要がある。それには、所得代替率の基準になる支給開始年齢を生年月日別に段階的に引上げ、それに応じて単価・乗率を引上げるという仕組みに切り替えればよい。
ただし、これは現行制度の選択制の繰下げ受給を、段階的に強制に切り替えるのと変わらず、労使の反発や政治的な抵抗を受けやすい。また、所得など社会階層と寿命の間にかなり明確な因果関係があることが学術研究でも明らかになっており、支給開始年齢の引上げによる受給期間の短縮は低階層の給付削減として機能するという問題もある。
その一方で、給付水準の改善にとどまらず、高齢者雇用を促進する効果が期待できるという観点から、支給開始年齢引上げの推進論もある。
そういうなかで国民的な合意形成を図るには、支給開始年齢引上げ後も繰上げ受給の選択制を残さざるをえず、結局のところ現行制度と大差ないものになろう。そうであれば、現行の選択制を基本として、高齢者雇用の促進や在職老齢年金制度の見直しなど、繰下げ受給の推進に向けた環境整備や奨励措置を講ずるほうが現実的な選択肢だとも考えられる。

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