社会保険や社会保障制度には、ある給付を受けると、受給資格のある別の給付について、支給額が減額されたり支給停止になるなどの「併給調整」が行われる仕組みがあります(第32回の記事では、「特別支給の老齢厚生年金」と雇用保険の「失業給付」の調整について解説しています)。今回は、年金制度の「障害年金」と健康保険の「傷病手当金」の併給調整について解説します。

1傷病手当金と障害年金の違い

傷病手当金は健康保険の制度

 傷病手当金の支給条件を見れば、障害年金との違いがわかります。

 傷病手当金は、①健康保険の被保険者が、②業務外の事由による病気やケガのために働くことができなくなり、③事業主から十分な報酬が受けられない場合に、④会社を休んだ日が連続して3日間あったうえで4日目以降、休んだ日に対して通算で最長1年6ヵ月支給されます。

 上記①~④の支給条件を整理して補足すると、図表1のようになります。

【図表1】傷病手当金が支給される主な条件

①病気やケガによる休業の開始時および支給の開始時に健康保険の被保険者であること
「健康保険の被保険者」とは、全国健康保険協会(協会けんぽ)・健康保険組合・共済組合の被保険者であること(被扶養者は支給の対象外)。
自営業者などが加入する国民健康保険の被保険者には支給されない。
業務外の事由よる病気やケガの療養のための休業であること
業務上・通勤災害で生じた病気やケガの場合は、労働者災害補償保険(労災)の給付対象となる。
③休業の期間中に給与の支払いを受けていないこと
休業期間について給与の支払いがある場合は支給されない。ただし、休業期間についての給与の支払いがあっても、その給与の日額が傷病手当金の日額より少ない場合、傷病手当金と給与の差額が支給される。
④3日間連続して仕事に就けず、4日目以降も仕事に就けない状態であること
休業期間のうち、最初の3日を除き4日目から支給される。(➡図表2参照

 図表1の①のとおり、傷病手当金は「健康保険の被保険者」が支給対象ですが、障害年金は「国民年金・厚生年金の加入者」が支給対象となります。

 そのほかの、支給開始の時期、支給される期間などの相違点について見てみましょう。

傷病手当金は休業4日目から支給開始

 傷病手当金は、病気やケガの療養のために仕事を休んだ期間のうち、最初の3日間は「待期」といい、4日目から支給されます。(「待期」には、有給休暇、土日・祝日等の公休日も含まれ、給与の支払いがあったかどうかは関係ありません。)

 「待期3日間」は、会社を休んだ日が連続して3日間なければ成立しません。連続して2日間会社を休んだ後、3日目に仕事を行った場合には、「待期3日間」は成立しません。

【図表2】傷病手当金の「待期3日間」の考え方

【図表2】傷病手当金の「待期3日間」の考え方です。傷病手当金は休業してから最短で4日目から支給が開始されます。

 このように、傷病手当金は休業してから最短で4日目から支給が開始されますが、障害年金は原則として初診日から1年6ヵ月が経過(または1年6ヵ月以内に症状が固定)してからでないと支給されません。

傷病手当金の支給期間は最長1年6ヵ月

傷病手当金の支給期間は、最長で通算1年6ヵ月です。以前は「支給を開始した日から最長1年6ヵ月」でしたが、令和4年1月1日より「支給を開始した日から通算して1年6ヵ月」に変わりました。ただし、支給を開始した日が令和2年7月1日以前の場合には、以前のとおり、「支給を開始した日から最長1年6ヵ月」までの期間になります。図表3に例示します。

【図表3】傷病手当金の最長支給期間(例)

傷病手当金の支給開始後6ヵ月間休業した後、6ヵ月間出勤(支給停止)し、その後、再び12ヵ月間休業というケース

【支給開始日が令和2年7月1日以前の場合】

【支給開始日が令和2年7月1日以前の場合】傷病手当金の支給開始後6ヵ月間休業した後、6ヵ月間出勤(支給停止)し、その後、再び12ヵ月間休業というケース

【支給開始日が令和2年7月1日以降の場合】

【支給開始日が令和2年7月1日以降の場合】傷病手当金の支給開始後6ヵ月間休業した後、6ヵ月間出勤(支給停止)し、その後、再び12ヵ月間休業というケース

傷病手当金は、支給期間が通算で1年6ヵ月に達すると、病気やケガが治らずに療養が続いているとしても、支給は終了します。一方、障害年金は、障害認定基準に該当している限り支給されます。

傷病手当金の支給額は支給前1年の標準報酬月額の3分の2が基準

傷病手当金の1日の支給額は、次の計算式で算出されます。

傷病手当金の日額 : 支給開始日以前12ヵ月間の標準報酬月額の平均 ÷ 30 × 2/3

標準報酬月額とは、毎月の給料などの報酬の月額を区切りのよい幅で区分した金額のことで、おおむね月収の額になります。つまり、上記の計算式の意味するところは、「傷病手当金の1日分の支給額は、直近1年間の平均月収における1日分の3分の2である」ということです。(※支給開始日以前の期間が12ヵ月に満たない場合は、別の計算式によって算出されます。)

直近1年間の標準報酬月額の平均が18万円のAさんの傷病手当金の日額

18万円 ÷ 30 × 2/3 = 4,000円

直近1年間の標準報酬月額の平均が27万円のBさんの傷病手当金の日額

27万円 ÷ 30 × 2/3 = 6,000円

障害年金の額については、さまざまな条件が関係してきます。障害基礎年金(1級・2級)・障害厚生年金(1級・2級・3級)の等級によって、また、加算額等の有無によって、さらに、障害厚生年金は納めてきた厚生年金保険料額によって、年金額が決まります。

傷病手当金と同一の傷病による障害年金の併給調整においては、障害厚生年金の額(同一の傷病により障害厚生年金と障害基礎年金の両方を受給できるときは、その合計額)を360で割って日額に換算して比較します(年額を12で割り、月額を30で割って日額に換算/1円未満は切り捨て)。

障害年金(合計額)が180万円の場合の日額換算額

180万円 ÷ 360 = 5,000円

 では、傷病手当金と障害年金の併給調整の仕組みを、次項で見てみましょう。

point

●傷病手当金は、健康保険の被保険者を対象とした制度であり、障害年金とは支給要件が異なっている

●傷病手当金の支給開始は休業4日目からで、支給期間は通算して最長1年6ヵ月である

●傷病手当金の1日当たりの支給額は、直近1年間の平均月収における1日分の3分の2である

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