topics

兵庫県宝塚市 市民交流部市民生活室窓口サービス課

宝塚市役所は、バルコニーのある洋風の建物。建築家の故・村野藤吾氏の設計によるもので、1階を「グランドフロア」、2階を「1階」と呼ぶイギリス式の階の数え方を採用している。

 「宝塚歌劇」のまちとして知られる宝塚市は人口約22万7,000人(国民年金の第1号被保険者数は約2万8,000人)。宝塚市で国民年金業務を担当する「窓口サービス課」の橋本成年係長は、市役所の窓口を「フロントライン」であると捉え、窓口の内側からの視線と外側からの視線を行き交わせることで相談者と年金制度との間を取り持ち、年金受給権の確保に努めている。相談者のために、ときにはブラック企業やハローワークと渡り合うことも。「年金受給権は市財政にとって含み資産」という発想で納付率の向上をめざす試みも行っているほか、「フロントライン」の機能強化のために社会保険労務士も窓口に配置している。橋本係長と、社会保険労務士の矢野恵理子さんに話を聞いた。

年金資格と住基情報の不整合を減らし免除勧奨。
ひいてはそれが市の増収にも…

― 年金受給権を確保するために、ほかにも取り組んでいることはありますか。

橋本 実は今年度、課内に「年金業務改善機構」というグループを作りまして――といってもグループのメンバーは私1人ですが(笑)――大量にあった不整合記録をなくして納付率の向上を図るという取り組みを行っています。これを今年度、宝塚市が職員から募集している実績提案「お宝発見運動」に応募したところ、最優秀賞に選ばれました。

― 具体的にはどのような取り組みですか。

橋本 まず、機構から送られてくる職権での転入データを市のシステムにも入力するようにしました。実は、お恥ずかしい話ですが、宝塚市はそれまで職権での転入データを市のシステムに入力していなかったので、機構と市の記録にギャップができてしまっていた。また、国民年金1号に職権適用された方のうち、既に転出されている方の転出先情報を機構に送るようにしました。転出先情報がわかれば納付書や免除の案内も届くはずなので、少なくとも知らないうちに職権適用されて未納のまま、という事態は防ぐことができます。
 さらに、機構から窓口専用端末を借りたことで、資格確認の効率が格段にアップしました。2013年度には800件以上あった年金資格と住基情報の不整合記録を突合して100件以下にまで減らすことができました。これにより住所や所得の情報は、正確に機構へ送られることになります。
 ついでに、機構から送られてくる処理結果一覧や、調査の過程で判明した未納者の記録を手掛かりに、免除勧奨の通知を送るようにしています。2015年4月~12月で1000件以上のご案内を発送しています。セミオーダーメードみたいな感じで、必要書類や結果の見込みも記載した案内文を同封しているので、反応がいいですよ。国からの事務費交付金が、免除勧奨1件につき400円加算されるので、市にとっても直接の増収につながります。
 不整合記録を減らすことは、国年保険料の納付率にも直結すると思います。だって、今まで届いていなかった人にちゃんと届くようになるわけですからね。そもそも納付率が低いのは、単に保険料を払いたくない人が多いというだけではなく、記録の不整合やシステムのギャップから来ている部分も大きいのではないでしょうか。

― 年金事務所との関係についてはどう考えていますか。

橋本 年金事務所では人材の流出が深刻だと思います。例えば、お世話になっていた職員が突然いなくなったので、理由を聞くと3年有期の契約社員だったこともあります。せっかく覚えた知識や経験もそこで終ってしまう。これはもったいないですよね。
 一方で優秀な職員は引き抜かれて中央などに異動してしまう。そのため、現場が疲弊していると感じます。新しく年金事務所に来た職員にこっちが教えてあげないといけないこともある(笑)。情報流出問題の背景にも、こうした現場の疲弊というのがあるのかもしれません。記録問題から始まってさんざん叩かれてきたので、機構も謝りっぱなしじゃなくて、組合がもっとしっかりして、たまにはガツンとストライキでもやれば引き締まっていいのにと思ったり(爆笑)。
 また、事務所の統合整理も必要かと。宝塚市を管轄する西宮年金事務所は、ほかに西宮市、芦屋市、三田市、篠山市、丹波市を管轄し、計100万人を超える人口規模を相手にしている。人口150万人を超える神戸市内には年金事務所が4つあることを考えると、西宮年金事務所1つで100万人超の人口を抱えるというのは相当の負担のはずです。地理的にも偏っていて、三田市や篠山市、丹波市から西宮年金事務所へ行くのは不便なはず。相談センターも西宮市にありますからね。西宮市内に一極集中ではなく、バランスよく事務所を統廃合し直すことが必要だと思います。
 あと、機構には現場と時代に即したシステム化をしてほしいですね。私はかつて後期高齢者医療を担当していたのですが、こちらのシステムは市と広域連合が日次バッチ処理で自動連携しています。ところが国年の場合はいまだに紙や手書きでのやり取りが行われていて、初めて国年の担当になったときは衝撃でした(笑)。
 いまは一応電子媒体化の話が出ているので、そういう方向にいくとは思うのですが、古いレガシーシステムは難しいですね。いっぺんに全国の自治体や年金事務所のシステムを入れ替えるわけにはいかない。日々の業務を継続しなければいけませんから。
 現行のシステムにある漏れや抜けを意識して、どうしたら適正化できるか、全体像をイメージしながらシステムを作っていくことが必要です。ただ単にマイナンバーを入れたら効率化します、というような話ではないですからね。厚労省や機構も苦労されていると思います。

次へ

この記事はお役に立ちましたか?

ご評価いただきありがとうございます。
今後の記事作成の参考にさせていただきます。

また、他のページもよろしければご利用をお願いしておりますので、
検索機能」や記事の「 人気ランキング 」をご利用ください。

あわせて読みたい記事

人気の記事