特別寄稿

年金改正を巡って

神奈川県立保健福祉大学 名誉教授 山崎 泰彦
神奈川県立保健福祉大学 名誉教授 山崎 泰彦

 昨秋の臨時国会で年金関係二法案が成立した。「公的年金制度の持続可能性の向上を図るための国民年金法等の一部を改正する法律」(以下「年金制度改革法」という)および「公的年金制度の財政基盤及び最低保障機能の強化等のための国民年金法等の一部を改正する法律の一部を改正する法律」(以下「年金機能強化改正法」という)である。
 年金機能強化法の改正法案は、臨時国会に提出され、11月16日、全会一致で可決、成立した。一方、年金制度改革法は、通常国会からの継続審査で、臨時国会では環太平洋経済連携協定(TPP)の承認および関連法案、統合型リゾート(IR)整備推進法案などと並ぶ与野党対決法案となり、難航の末、会期延長後の12月14日、可決、成立したものである。
 本稿では、年金機能強化法改正を紹介しコメントをした上で、与野党対決法案でもあった年金制度改革法のうち、保障機能に係る部分について論じてみたい。
 なお、後半の年金制度改革法に関する記述は、平成28年12月9日の参議院厚生労働委員会における参考人としての筆者の意見陳述に若干の補足をしたものである。

年金機能強化法の改正

 年金機能強化法改正は、社会保障・税一体改革関連法の一つとして成立した平成24年の年金機能強化法において、老齢基礎年金等の受給資格期間短縮(25年から10年へ)の施行期日を「消費税率10%への引上げ時」から「29年8月」に改めるものである(9月分から支給、初回の支払いは10月から)。
 これにより新たに老齢基礎年金の受給権を得る者は約40万人、特別支給の老齢厚生年金等を含めると約64万人で、老齢基礎年金の平均年金額は月額約2.1万円。所要財源は、平成29年度が約260億円、30年度(満年度ベース)が約650億円と見込まれている。
 一方、直ちには受給権は発生しないが、任意加入等によって資格期間を満たす可能性がある者が約17万人、改正後もなお無年金である者が約26万人と推計されている。これらの者も「カラ期間」などにより資格期間を満たす可能性があるため、加入記録が1カ月でもあれば、すべての者に制度の案内を含めて通知する予定としている。
 一見すると善政のように思われるが、この改正に諸手をあげて賛成というわけにはいかない。皆年金体制下のわが国で無年金が発生するのは、基本的に第一号被保険者の期間の加入漏れによる。40年の加入可能期間があるなかで25年を満たせないということは、15年間もの長期の加入漏れ(法的には、届出義務を果たさなかったか、滞納した期間。その多くは、国民健康保険に加入しながら、国民年金には加入しなかった期間)があることになり、加入のインセンティブが低下するのではないか。さらに、60歳から任意加入によっても間に合うことになり、逆選択を奨励することにならないか、細切れの低額年金の受給者を増やすのではないか、などの懸念がある。
 こうした懸念を払拭するには、第1号被保険者については従来にも増して、広報や適用・保険料徴収の強化が重要な課題になる。

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