これまで、障害年金について、その対象者から金額まで基本的なことを解説しました。

しかし、障害年金の申請の現場には、実はたくさんのドラマがあります。
なぜなら、他人と全く同じ障害というものは無いからです。

今回は、障害年金を受給できたケースについて、具体的にあった事例(下記①~③)を紹介させていただきます。ご自身やご家族の方が障害年金を申請する際のイメージを掴んでいただければ幸いです。

障害年金の事例①

初診日の記録がみつからない…。
初診日の記録がみつからない…。

初めて医療機関にかかってから長期間経っていると、「最初に受診した病院がなくなっていた。」「初診日の記録がない。」「カルテが見つからない。」というケースがあります。
その場合は…。

障害年金の申請を行う際に一番大事と言っても過言ではないこと、それが初診日を決めることです。

障害年金の基本的な考え方は、障害認定日またはその後に重症化して法令に定める障害にあったかどうかで、その支給を判断します。

障害認定日とは、「その障害の原因となった病気やけがについての初診日から1年6ヶ月が過ぎた日、または1年6ヶ月以内にその病気やけがの症状が固定した場合の日」と定義付けられています。
ただし、障害認定日以後に20歳に達したときは、20歳に達する前後3カ月の診断書をもって判断します。

初診日とは、障害の原因になった傷病につき、初めて、医者などの診療を受けた日のことです。つまり、この初診日を確定できないと、障害認定日が確認できないわけです。

しかし、実際に初めて診察を受ける時から「この症状は治らない病気だ。自分は障害年金を受け取るんだ」と考える人は少ないでしょう。
まずは、身体の調子が悪いと病院に行き、それから1年、数年と経ってから、実は長年抱えている身体の問題が障害にあたるということに気づくのです。

そうなると、数年前に受けた受診の記録を取っていないことはよくあります。
まだ病院があれば再発行もしてもらえそうですが、病院によっては一定年数経つと記録の破棄を行っていたり、そもそも病院が潰れていたり、なんてケースもあります。

たまたま受けた病院の問題で、障害年金申請ができたりできなかったりというのも不公平な話ですよね。
そこで、初診日が証明できないときの救済措置が用意されています。

具体的には、「診察券」「お薬手帳」といった、診察時に発行されるものが挙げられます。
それに「受診状況等証明書が添付できない申立書」という書類を添付します。

「診察券」「お薬手帳」といった、診察時に発行されるもの



「受診状況等証明書が添付できない申立書」

受診状況等証明書が添付できない申立書

実際に、初診日時点の受診記録が無くても、同様の書類で給付に結びついたケースはたくさんあります。
さらに、そのような書類すら無くても、周りの方からの第三者証明のみで初診日が認定されることもあります。

お薬手帳などに限らず、初診日の証明には様々な方法が考えられますので、初診日の記録が無いという理由で障害年金の受給を諦めるのは少し早いと言えるでしょう。

障害年金の事例②

パニック障害(神経症)と診断された。
障害年金は…。
パニック障害(神経症)と診断された。
障害年金は…。

「神経症」という病名を見る限りでは、障害年金は受け取れません。「神経症」は症状が重いものであっても、「障害認定基準」では原則、障害年金の対象にならないからです。でも、例外とされるケースがあります。
それは…。

『障害年金』を学ぶ②~どんな病気で受け取れるのか~でも解説をしておりますが、障害年金を受給するためには、その病気が厚生労働省の認定基準に当てはまるものかどうかで判断します。
うつ病のような精神の障害も同様に厚生労働省の認定基準に従って、その等級が決定されます。

実は厚生労働省の認定基準に「パニック障害」「パーソナリティ障害(人格障害)」「適応障害」「不安障害」といった病気は入っていません。
これらの病気を一般的に「神経症」と呼びます。
神経症に明確な定義はありませんが、強いストレスにより様々な症状が出ることを指します。昔はノイローゼと言っていました。

なぜ神経症は障害年金の対象ではないのでしょうか。
「神経症は一過性のものである。」と捉えられているからです。
障害年金は症状が固定していて、長い期間支給し続けることが原則です。そこから外れてしまうのです。

では、神経症の症例では障害年金は受け取れないのでしょうか。

実は例外があります。
認定基準をよく読むと、神経症についての記載があります。

(5)神経症にあっては、その症状が長期間持続し、一見重症なものであっても、原則として、認定の対象とならない。ただし、その臨床症状から判断して精神病の病態を示しているものについては、統合失調症又は気分(感情)障害に準じて取り扱う。
なお、認定に当たっては、精神病の病態がICD-10による病態区分のどの区分に属す病態であるかを考慮し判断すること。

※「※ 国民年金・厚生年金保険障害認定基準 58ページ」より抜粋 赤線は筆者

「神経症」は、原則、障害年金には認定されないのですが、病態から判断する場合があると記載されています。
また、「ICD-10による病態区分」によるとの記載もあります。
「ICD-10」の一例をみてみましょう。


「ICD-10」コード

病名 ICD10コード
1 パニック障害 F410
2 パニック発作 F410
3 挿間性発作性不安 F410
4 破局発作状態 F410
5 全般性不安障害 F411
6 不安緊張状態 F411
7 不安神経症 F411
8 混合性不安抑うつ障害 F412
9 不安うつ病 F412
10 不安ヒステリー F418
11 不安障害 F419

厚生労働省や日本年金機構では、「精神の障害に対する障害年金は、精神障害、知的障害又は発達障害により日常生活に継続的に制限が生じ、支援が必要な場合に、これを障害状態と捉え、その障害の程度(=日常生活の制限度合いや労働能力の喪失)に応じて障害等級を決定し、支給する。」としています。

障害年金における障害等級の認定事務は、日本年金機構が行っています。
そのため、日本年金機構へ提出する「障害年金用の診断書」には、「ICD-10」のコードを記載する欄があります。また、疾患名や病歴・治療経過・病状等の内容と日常生活能力に関する評価について、齟齬や矛盾がなく、整合性があるのか?という点にも着目しています。
適切な障害等級の決定にあたっては、診断書の内容をできる限り詳細かつ具体的に記載することが大変重要です。

ストレス過多な時代において、このような神経症の症例は増えています。
「神経症では障害年金は通らない」という話だけで諦める必要はないのです。

障害年金の事例③

人口透析が障害年金の対象になるとは知らなかった…。
人口透析が障害年金の対象になるとは知らなかった…。

人口透析は、障害年金2級の対象です。
しかしながら、人口透析が開始されるまでに数十年の病歴がある方は少なくありません。
初診日はいつからになるのでしょう。そんなケースです。

人工透析を行っている場合、障害年金の該当等級は2級となります。
ところが、自分が人工透析を受けることになった際、このことを知っている方は少ないでしょう。

実際、人工透析を始めて10年ほど経ってから、障害年金のご相談を受けた事例があります。初診日から1年6ヶ月後の段階では、まだ透析まで行っていませんでした。
その際の記録では認定日に遡って障害年金を受けるのは難しい状況でした。

10年も人工透析を受けているのだから、遡って支給を受けても良いのではないか、と思うかもしれません。
しかし、認定日請求は支給日を遡れても、事後重症請求は遡れないのです。
「事後重症請求」に関する詳しい内容は、年金を学ぶ【第9回】『障害年金』を学ぶ①~どのような方が受け取れるのか~をご覧ください。

例えば、当該の方が初診日から1年6ヶ月後に人工透析を行っていたら、どうなるでしょうか。その時の受診記録が残っていれば、認定日請求となります。障害年金の遡りは最高でも5年なので、5年分の遡りができます。金額にすると、障害基礎年金だけでも、2級は816,000円ですから、5年分は4,080,000円です。(※2024年度の年金額で試算)

一方で、10年人工透析を受けていても、事後重症請求となれば、一切遡れません。つまり、「もっと早く知っていれば」と後悔することになります。
認定日請求か、事後重症請求かによって金額を明記しますと、その大きな違いを認識していただけるでしょう。

その障害、気軽に聞いてみよう

障害年金のことを調べていくと、そのハードルの高さに驚きます。
ずいぶん昔の受診記録を用意しなくてはいけなかったり、自分がその障害年金の対象となる症状になっていなかったり。

しかし、障害年金の本来的な役割は、病名等にかかわらず、「その方の障害により困難になる生活をサポートする」ことなのです。
そのために、一見では障害年金の支給対象外でも、生活に支障をきたしている以上はできるだけ救えるように設計されています。

もちろん、必ず支給されるというものではありませんが、ご自身が障害にあたるかも、と感じた際は、ぜひ専門家の機関にご相談をいただきたいです。社会保険労務士や年金事務所、市区町村の国民年金課などが挙げられます。

症状が変わったら、また聞いても構いません。もちろん自分自身で情報を収集することも大事ですが、障害は社会が支えるべき症状です。気後れせずに問い合わせてみてください。

【障害年金】についてもう少し学びたい方はこちらをご参照ください

- 次回予告 -

『障害年金』を学ぶ⑤
~障害年金に関するよくあるQ&A~

次回、くらしすとEYEの年金を学ぶ【第13回】では、
"『障害年金』を学ぶ⑤ ~障害年金に関するよくあるQ&A~ "
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