




いまや邦画界を代表する名優の一人である。加えてアクの強さでも一二を争う個性の持ち主だろう。エンドロールに彼の名前を見つけて「柄本明どこに出てたっけ?」などということは決してない。『春との旅』(2010年)や『0.5ミリ』(2014年)などでのクセのある役柄であればもちろんのこと、『桜田門外ノ変』(2010年)のような終始落ち着いた語り口の役柄であっても、柄本の芝居は目に、耳に、残る。
近年『悪人』(2010年)の父親役や『許されざる者』(2013年)の没落士族役に代表される、抑えた渋い芝居で高く評価されている柄本だが、相変わらず昔ながらの過激な役や奇矯な役も演じてくれるところが嬉しい。仕事を選ばないというより、いつまでも、どんな役でもやってみせるという、芝居に対する底なしの愛情と矜持が、そこには感じられる。
『リアル鬼ごっこ』(2008年)では理不尽な殺戮ゲームを主催する冷酷きわまりない王様、『電人ザボーガー』(2011年)では人間への復讐心をたぎらせて悪のサイボーグを次々と送り出す車椅子の博士、『風邪(ふうじゃ)』(2014年)では風邪ワクチンの開発に取り憑かれたやたらと声の大きい医師と、どの役も、針の振り切れた過剰な悪を見事に演じきっている。
とりわけ『電人~』の、悪ノ宮博士役のマッドサイエンティストぶりは、奇才・井口昇監督も納得の大熱演である。ふつうに考えて『悪人』と『許されざる者』の間にこの役はないと思うのだが、いやいや、役者は小さくまとまってはいけない。柄本はそれをよくわかっている。これでいいのだ。
マッドサイエンティスト役といえば、『魍魎の匣』(2007年)の美馬坂幸四郎役で見せた静謐な猟奇も忘れがたい。映画自体は何とも言いようのない怪作とだけ言っておくが、この作品での柄本は非常にいい。感情の起伏を極力抑えた理路整然とした話し方と、ここにない何かを見据えたかのような眼差しが、不死の探究に魅入られて生体実験を繰り返す博士の狂気を見事に表現している。
中でも、柄本が管理する軍の研究施設での、拝み屋・中禅寺秋彦(堤真一)との荘子や古事記からの引用を散りばめたペダンチックな対話は、さり気ないが本作の白眉と言ってもよかろう。
この場面で、柄本は、自分の研究分野では親子だの先祖だのといった文化的つながりは大きな意味を持たないのだと言い放つ。対する堤は、僕の分野では色々と意味があるんですよと返して、柄本の出身地には水の神でもある罔兩(もうりょう)を祀った神社があると指摘する。加えて罔兩の二文字に鬼をつければ化け物(魍魎)になるとも言い、暗に柄本が魍魎の流れを汲む存在であることを示唆する。呪術と科学、陰陽師と妖怪が、対峙して腹をさぐり合う名シーンになっているわけだが、このスリリングさと緊張感を支えているのは、柄本の鵺的存在感にほかならない。彼が得体の知れない怪物に見えるからこそ、成立している場面だと言えるだろう。
「ならば私も魍魎か」とは作中での柄本自身の台詞だが、役柄を超えてほんとうにその通りだと思う。古稀を前にいまだ役の幅を広げ続け、齢を重ねるほどさらにつかみどころがなくなっていく。そのプログレッシブな姿勢は、まさに芝居の魍魎である。
次回は「橋爪 功」を予定しています。
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