長年の年金保険料の支払いを経て、いよいよ年金を受給できる。その苦労が報われる日を楽しみにしている方は多いのではないでしょうか。それだけに、年金受給日を決めるのは、単なる損得を超えて大事なことです。
ご存知のように、年金の受給開始年齢は原則65歳としつつ、ご自身の意志でその前から受給する繰り上げと受給日を先に延ばす繰り下げを行うことが可能です。
この繰り上げと繰り下げのルールが、令和4年度に大きく変更となりました。今月から複数回に分けて、解説をさせていただきます。
第1回目は、今回の改正の概要と、その目的です。これらを知ることで、今回の改正はもちろん、今後も納得して年金を受け取ることができるようになるでしょう。
令和4年度の改正の概要
今回の改正では、大きく2つのルールが変更となります。
- (1)年金の受給開始を早める(年金を早く受け取る方)繰り上げ制度の減額率の変更
0.5% ⇒ 0.4% - (2)年金の受給開始を遅らせる(年金を遅く受け取る方)繰り下げ制度の上限年齢の変更
現行70歳 ⇒ 75歳
ただし、①については昭和37年4月2日以降に生まれた方、②については昭和27年4月2日以降に生まれた方、および平成29年4月以降に老齢基礎年金の受給権が発生した方に限られます。
どうして見直しなのか?
2022年度予算における一般会計歳出総額は107.6兆円、そのうち、いわゆる社会保障に使われる金額は33.7%の36.3兆円となっています。さらに社会保障のうち、38.2%の12.7兆円が年金の給付に使われます。
※「財務省HP、厚生労働省 令和4年度予算案の概要(PDF:1.34MB)」より一部改変
何か大きすぎてピンと来ませんが、簡単に言えば国の予算の約10%が年金支給です。その割合から、いかにその金額が巨額であるか、わかると思います。
日本は毎年、国債をGDPと比較して極めて高い水準で発行しています。各論ありますが国債はいわば国の借金ですので、健全な財政とは言えません。国としてはできるだけこの国債発行を抑えたいと考えています。ただでさえ日本は少子化高齢化で、現役世代が減り、年金世代が増えることが既にわかっています。
一方で人々のライフスタイルは多様化し、医療環境も改善して平均寿命が伸びました。健康なうちは働きたい、というニーズが多くなりました。
そこで元気で働きたい人には年金に頼らず働いてもらうための改正が、年金の繰り下げです。長く働くことへのインセンティブを増やすことにより、平均寿命の伸びに合わせて長く働ける社会へシフトしたいのです。以前にこのコラムで解説をした在職老齢年金の改正や、高年齢者雇用安定法の改正で70歳までの雇用を努力義務にしたことも、同じ目的の中で語られると言って良いでしょう。
また、年金の繰り上げにより、減額率が減ります。つまり、繰り上げした分の減額が抑えられるようになりました。
意外だと思いませんか?社会保障費を下げて国債発行を抑えるなら、年金の額を減らせば良いわけです。しかし、実際には年金受給者に有利になっています。つまり、今回の改正は支給額を抑えること以上に、受給者の選択肢を増やして、必要な方に適切な年金を届けるための施策なのです。国が年金を払いたくないから改正したという方もいますが、必ずしもそれだけが理由ではありません。
これから年金受給をされる方には、この改正をポジティブに受け取っていただきたいと考えます。
次回以降で、この年金の繰り上げ、繰り下げの改定について、その内容をじっくりと解説をしていきます。お楽しみに!