




ブレイクした時のイメージをその後長年にわたって引きずる役者は少なくない。そういう意味で、『天国と地獄』(1963年)の誘拐犯役は、山﨑努が世に出るのと引き換えに背負った、ある種の"十字架"だったはずだ。
その強烈なインパクトは、のちのちの役の幅を狭めかねないものだった。だから山﨑は、60年代後半〜70年代前半にかけて、いわゆる悪役のオファーを受けながらも、一方でそれ以外の仕事の幅も広げていったのだろう。『赤ひげ』(1965年)では善良な大工役を演じ、シェイクスピアや安部公房の演劇にも積極的に挑戦した。それは"初犯"のイメージを薄めるためのものだったのではないか。
しかし、だ。彼はようやくほとぼりが冷めた頃に、またやってしまうのだ。
『必殺仕置人』(1973年)の「念仏の鉄」がそれだ。しかも大ブレイク。ゆえに二度も演じることになる。山﨑が「同じ役は二度としない」と公言しているのは有名な話だ。なのに、よりによってこの殺し屋の役(正義の味方とはいえ)だけは77年に『新・必殺仕置人』で、わざわざもう一度演じてしまう。
ダメ押しは同年の『八つ墓村』の殺人鬼役だ。日本刀と猟銃での歴史的大量虐殺。「もう一生そんな役しか来ないよ」というレベルのカタメ打ちだが、彼はここで"確信犯"になったのだと思う。一生"悪"を演じ続ける覚悟と、同時にそれ以外の役も演じ続けて役者人生を全うしてみせる覚悟、という二つの意味において。
実際、その後の山﨑の役の幅は、狭まるどころか逆に加速度的に広がっていく。黒澤明、勅使河原宏、大林宣彦、寺山修司らの名監督に重要な役どころで呼ばれる一方で、ピンク映画から移った滝田洋二郎や、Vシネマから移った三池崇史、当時新人監督の行定勲の作品にも積極的に出演して様々な役を演じていく。舞台では『ダミアン神父』(1991年・1995年)、『リチャード三世』(1987年)、『ヘンリー四世』(1991年)を経て、ついには『リア王』(1998年)にまで到達する。
もちろんピカレスクの追求もやめない。『マルサの女』(1987年)の権藤社長役がそれである。山﨑はこの作品で、政界や暴力団とつながりを持つ脱税経営者という"悪"を、知的かつ人間臭く、魅力たっぷりに演じてみせる。作品は興行的にも大ヒットし、その年の各賞も総なめにする。この一作がなければ、その後伊丹十三が映画を撮り続けることはおそらくなかっただろう。
山﨑は、2000年に紫綬褒章、2007年には旭日小綬章を受ける。極めつけはアカデミー外国語映画賞を受賞した『おくりびと』(2008年)への出演である。ここまで輝かしい経歴を積み上げて、ピカレスクの追求の方はさすがにもう打ち止めだろうと誰もが思ったに違いない。だが、彼にとっては「それはそれ、これはこれ」だったのだろう。まだこんな悪があるといわんばかりに、『藁の楯』(2013年)では、孫娘を殺した犯人に10億円もの懸賞金をかける経済界のドンを76歳で演じている。常軌を逸した懸賞金で国内を混乱に陥れる老いた狂王の姿は、山﨑にしか演じられないもう一人のリア王である。
山﨑努の飽くなき悪の追求に終わりはない。この人はまだやる気がする。喜寿になっても"再犯"の可能性が高いといわれる役者がどこにいるだろうか。
第3回は「石橋蓮司」を予定しています。
ボタンを押して評価してください。

-
ねんきんABC年金制度、保険料、年金手続き など
年金制度ってどんな仕組み?
保険料はどうなっている?
年金はいくらもらえる?
- いくらもらえるの? ①老齢基礎年金
- いくらもらえるの? ②老齢厚生年金
- 働きながら年金はもらえるの?
- 雇用保険をもらいながら年金はもらえるの?
- 障害年金はいくらもらえるの?
- 遺族年金はいくらもらえるの?
年金の手続きはどうする?
-
ねんきんAtoZ年金給付、障害年金、遺族年金 など
年金制度を知りたい
- 年金の種類
- 年金の給付
- 年金の受給開始年齢
- 年金の受給要件
- 保険料の計算方法
- 保険料の免除
- 学生納付特例制度
- 産前産後休業・育児休業の期間中の保険料
- 在職老齢年金の計算
- 雇用保険と年金
- 障害年金の支給要件と支給額の計算
- 遺族年金の支給要件と支給額の計算
- 老齢基礎年金の支給額の計算
- 老齢厚生年金の支給額の計算
- ねんきん定期便・ねんきんネット
項目別 問題一覧
-
ねんきん手続きガイド老齢年金受給手続きなど各種手続き
はじめてをもらう人の手続き
すでに年金をもらっている人の手続き
-
ねんきん用語集遺族年金、厚生年金保険料、障害年金 などねんきんの用語を「わかりにくい」を「わかりやすく」、年金制度の難しい専門用語を平易に解説した用語集です。