




1960年代から70年代はじめにかけて量産された任侠映画は、明治期~昭和初期を舞台にした時代劇であり、ファンタジーであった。仁義を貫いて生きる人間など、現実では滅多にお目にかかれない。だからこそ、人々は彼らの美しい生き様に憧れ、喝采を送り、酔いしれたのである。
『緋牡丹博徒シリーズ』(1968年~1972年)の矢野竜子役で名を馳せた藤純子(ふじ・じゅんこ)は、鶴田浩二、高倉健と並ぶ任侠映画の大スターだった。任侠界という男社会で女侠客として一歩も退かない度胸。権力者たちの理不尽な仕打ちや野暮に対する胸のすくような啖呵。様式美に彩られた殺陣と粋な立ち居振る舞い。緋牡丹の花の刺青と一途な純情を内に秘めたそのストイックな姿は、まさにダークファンタジーのヒロインそのものであった。
1972年、歌舞伎界のスター・尾上菊五郎との結婚を機に一旦スクリーンを去った藤が、富司純子(ふじ・すみこ)の名で映画界に返り咲いたのは、それから17年後のことであった。復帰作『あ・うん』(1989年)は、健さんのほのぼのとした社長役にも驚かされた作品だったが、それ以上に目を引いたのは、相手役である富司の変わりようだった。任侠の鎧を脱ぎ捨て、女の性を露わにしたその華やかな芝居は、藤時代を知る者に鮮烈な印象を与えた。この作品には、齢を重ねて厚みを増した彼女のリアルな人間味が溢れている。まずファンタジーから足を洗ってみせることが、富司純子のデビューにはどうしても必要だったのである。
その後の富司は、より現実感のある自立した女性を数多く演じていくことになる。炭坑町の気丈な母親を演じて高い評価を得た『フラガール』(2006年)での熱演が有名だが、その他にも『櫻の園 さくらのその』(2008年)の規律を重んじる名門女子校の教頭役や、『人生、いろどり』(2012年)の口は悪いが友情に厚い雑貨店の老婆役なども印象に残る仕事である。
そのような富司のキャリアの中で、久々に彼女の人間味をじっくりと見せてくれたのが『舞妓はレディ』(2014年)だ。置屋の女将という役どころは深作欣二監督の『おもちゃ』(1999年)と同じなのだが、この作品での富司は、コメディということもあってカラリと明るく、また凛とはしているものの、どこか肩の力が抜けていて実にいい塩梅なのである。
中でも、舞妓に必須の京言葉習得のプレッシャーから声が出なくなってしまった主人公(上白石萌音)に対して、富司がそっと寄り添うようにして自分の歩んできた道を語って聞かせる場面が絶品だ。足をくずして箪笥に背中をあずけ、湯飲みを持ってゆったりと話すその姿の美しさ、台詞まわしの巧さ、微妙な表情の豊かさには、観ていて思わず唸り声が漏れる。
その昔、舞妓の駆け落ちを手引きしたという話は、同じようなエピソードがある『日本女侠伝 侠客芸者』(1969年)の藤純子の台詞に聞こえる。スター俳優との恋愛話は、旧姓・俊藤純子(しゅんどう・じゅんこ)のものだろう。そして「自立した女として生きていける、そんなお茶屋にしたいと思たんや」と自分の職業人生を振り返るくだりは、紛れもなく富司純子の言葉である。この場面には、女の侠気と、恋と、自立を語る、3人の純子が居る。邦画史の一部と言っていいほどの、豪奢で華々しい名シーンではないだろうか。
次回は「大竹しのぶ」を予定しています。
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