




オモテがあればウラがある。善人ぶっていても実はワル、という話ではない。熟練の役者が晩年になって、最盛期に知られた役とは正反対の、あるいは最盛期の役にひねりを利かせた役を演じることがある。そういう意味でのオモテとウラである。コミカルからシリアスに転じる者もいれば、その逆もある。それこそ善人からワルに衣替えする者もいる。それを観ることは我々観客にとって妙味のある体験だが、役者自身にとっても、長く生きてきたからこそできる表現であり、醍醐味だろう。
近年の藤竜也は、このウラを愉しんでいるように見える。彼の最盛期のオモテは、ワルであり、インモラルであり、ハードボイルドだった。たとえば、ワルは『野良猫ロック』シリーズ(1970~71年)や『不良番長』シリーズ(1972年)、インモラルは『愛のコリーダ』(1976年)や『愛の亡霊』(1978年)、ハードボイルドは『友よ、静かに瞑れ』(1985年)や『行き止まりの挽歌 ブレイクアウト』(1988年)である。還暦を越えた頃から、藤はこれらのフィルモグラフィーを辿り直しつつ、様々な切り口でウラを演じてきた。
ワルのウラには『許されざる者』(2003年)をあげたい。同タイトルのクリント・イーストウッド監督・主演作品のリメイク版(渡辺謙主演)のようなスケール感や格調はないが、加藤雅也や北村一輝など、とにかく出ている役者がみんな輝いている。中でも藤が演じるずうずう弁の殺し屋がいい。常にネズミをバタバタと追っかけ回している野良猫のようなワルではなく、普段は寝ていてネズミを見つけたときだけ俊敏に動く飼い猫のようなワルだ。格闘時の身のこなしも、銃や手榴弾の捌きっぷりも、すべていい具合に肩の力が抜けている。若い頃にはなかった飄然としたカッコよさがある。
インモラルのウラなら『私の男』(2014年)だ。家族が欲しいという浅野忠信の見通しの甘さを家庭人として窘め、不道徳に耽溺する二階堂ふみに人の道を説く。かつて『愛のコリーダ』で不道徳の限りを尽くした男が、道ならぬ恋に殉じようとする一途な女を諭すのである。これぞオモテがあるからこそ際立つウラの味わいだろう。
ハードボイルドのウラには『村の写真集』(2005年)を推したい。藤演じる写真館の主人は、ビシッと三つ揃いを着込んで山村の人々を黙々と撮って歩く。車は使わない。あくまでも徒歩を貫く。これは、銃を写真機に持ち替えた藤が、ダムに沈みゆく村に、写真という鎮魂歌を捧げる静かなハードボイルドである。
藤は今年になって再度ワルのウラに挑んだ。北野武監督『龍三と七人の子分たち』(2015年)である。今度はさらに力を抜いてコメディかと思いきや、これが逆なのだ。彼が力を入れて古いタイプのヤクザを熱演すればするほど、周囲とのギャップが笑いになるという趣向になっている。これまでになかった役柄だが、そのような世界の中にあっても、ダンディズムと哀愁を漂わせるところはさすが藤竜也である。
オモテで実績のある人がウラをやるのは、意外性という高下駄を履いているからズルいという声もある。しかし単に痛々しい結果に終わる者もいる。誰にでもできるというものではないのだ。
次回は「西田敏行」を予定しています。
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