




出る杭は打たれる。歯に衣着せぬ物言いや独特な語感をもつ表現などは、バッシングの格好の標的だ。かつてはマスコミが、いまやネット上で個人までもが、出る杭を打つ時代である。
桃井かおりもかつてはよく打たれていた。いまになってみれば単に正直なだけだったのだと思うのだが、昔はインタビューなどではっきりモノを言う女性は少なかっただけに、余計に目立ったのである。あの気怠そうな話し方を態度が悪いと言われ、演技に対する自他を問わない厳しい姿勢を生意気だと叩かれていた。
彼女が素晴らしいのは、このレッテルを逆手に取って「ほら、こんなに態度が悪くて生意気な女、大嫌いっしょ?」とばかりに役柄に昇華させてしまったところだ。『疑惑』(1982年)の鬼塚球磨子役がそれである。
公開当時、保険金殺人の嫌疑をかけられるこの役には、やや映画的な誇張を感じたものだが、いまとなっては圧倒的にリアルだ。その後、実際にマスコミに露出することになる数々の悪女(と呼ばれる女たち)は、すべてこの球磨子の模倣である。そんな無茶な言い方をしてみたくなるほど、彼女の表現は先を行っていた。予言めいていた。
煙草の吸い方、髪を掻きあげる仕草、失礼な半笑い、値踏みするような目つき、常に体幹が傾いた立ち方や座り方など、桃井は考えに考え抜いて「悪女の態度」を作り込んでいる。言うことがダーティーで声が大きいだけの単純なワルなどではないのだ。
もちろん野村芳太郎の巧みな演出もある。だが、それを文字通り体現してみせた桃井の力量に驚かされる。身勝手で、感情的で、憎たらしいが、人間臭くて、正直すぎて、そのマイペースぶりに思わず笑ってしまうような、オリジナリティ溢れる悪女である。こんなものを見せられては、もう雰囲気だけの女優だなどという悪口は誰も言えなくなる。
出すぎた杭は打たれない。独自の個性に深みのある演技を加えた彼女の芝居は、その後どんどん幅を広げ、磨き上げられていく。『生きてみたいもう一度 新宿バス放火事件』(1985年)では心身ともに火傷を負った女を熱演し、『TOMORROW 明日』(1988年)では抑えた芝居で市井の妊婦をシリアスに演じる。かと思えば『木村家の人びと』(同年)では軽やかに銭ゲバ主婦に変じてみせる。それぞれまったく異なる役柄を演じながらも、桃井らしさは際立っている。
近作の『昴-スバル-』(2009年)ではバレエの小劇場の支配人、『ヘルタースケルター』(2012年)では辣腕を振るうステージママを演じている。両作品ともただの脇役ではなく、主役の黒木メイサや沢尻エリカの生き様を左右する重要な役柄である。
前者は成長の物語、後者は破滅の物語というまったく正反対の形式を取りながら、どちらも若い女性の自立を描いているところが面白い。新しい世界の入口に立つ彼女たちの背中を押すことが桃井の役割だ。いまや邦画界に黒光りを放って屹立する「杭」は、黒木の背中を力強く押し、沢尻の背中は強く押しすぎて杭が突き刺さっている気もするが、どちらも桃井にしかできない、桃井らしい押し方である。脇に回ってもその個性はやはり出すぎている。
次回は「平幹二朗」を予定しています。
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