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飽くなき者たち−円熟の輝きを放つ名優の軌跡−
倍賞美津子の多様な華
掲載:2017年1月13日
倍賞美津子

 千恵子と美津子。この誰もが知る女優姉妹が歩んできた道のりは、それぞれかなり異なる。性格や資質が違うという理由だけでなく、常に比較対象となる相手とは別の仕事を互いに選んでいった、という事情もあったのではないだろうか。
 たとえば、これまでに組んだ監督の数だけみても大きな差がある。駆け出しの頃は別として、それなりに自分のキャリア構築を考え始める30代以降、今日までに2人は各々60数本の映画に出演しているが、監督の数は千恵子がわずか二十数名、美津子はその倍以上ある。もちろんこれは、千恵子が長年にわたって山田洋次監督作品に数多く出続けたからで、美津子の監督遍歴が多彩というよりも、千恵子の方が少なすぎると言った方が正しいのかもしれない。だが、それでもやはり、美津子の組んできた監督とその作品は、数だけでなく質的に見ても多様で華やかだ。

 黒澤明の時代劇(『影武者』1980年、他)、今村昌平の重喜劇(『楢山節考』1983年、他)、森崎東の怒劇(『生きてるうちが花なのよ死んだらそれまでよ党宣言』1985年、他)と、タイプの異なる大御所の作品に出演する一方で、独自路線をゆく気鋭の監督や、デビュー間もない新人監督の作品でも躊躇しない。かつては相米慎二(『ションベン・ライダー』1983年)や石井聰亙(『逆噴射家族』1984年)、近年では橋口亮輔(『ぐるりのこと。』2008年)や熊切和嘉(『莫逆家族 バクギャクファミーリア』2012年)など、切れ味のいい監督の名前がずらりと並ぶ。
 当然、役の幅も広くなるのだが、旅回りのストリッパー(『生きてるうちが~』)や遊郭の女将(『陽暉楼』1983年)など、千恵子と比べてお行儀がよくない役や突き抜けたキャラクターも演じるところが彼女らしい。今村昌平の子息である天願大介監督の『デンデラ』(2011年)での、気味が悪いくらい平和主義を貫く隻眼の老婆役などは、おそらく姉が生涯踏み込むことがない領域の役柄だろう。

 大御所であれ新進であれ、数多の監督たちが彼女に求めてきたものは、野性味ある妖艶さや生命力あふれるしたたかさ、あるいは多少浮き世離れした人物設定であっても演じ切ってくれる懐の深さにある。ゆえに特異な世界観の物語やコメディとの肌合いもいい。近作『あやしい彼女』(2016年)でもその持ち味は健在だ。
 この作品は、倍賞演じる73歳の老婆が突如20歳に若返るというファンタジーである。見た目は20歳の多部未華子の内面が、実は老婆であるというねじれた設定が映画の勘所になっているわけだが、これは単に多部の芝居が巧いだけでは成立しない。若返る前の倍賞の芝居が印象的でなければ、観客はその後の多部の姿に老婆を重ねて見られなくなってしまう。だが、そのあたり大ベテランに抜かりはない。気が強く、町の嫌われ者でありながら、どこか純情を感じさせる老婆のキャラクターを、冒頭の短い登場時間だけで過不足なく出し切り、多部の熱演にあやしい残り香を添えている。不在でも存在感を漂わせる。こんなシブい助演もある。

次回は「松坂慶子」を予定しています。

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